”事業開発=SDGs”地域や子会社との連携を軸に課題解決に持続的に取り組むパソナグループ

#ESG#SDGs目標11#SDGs目標8#SDGs目標9#ビジネス#地方創生#社会的保護 2021.04.20

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【更新日:2021年9月15日 by 三浦莉奈

SDGsに取り組む企業にとって、壁となるのがSDGsを推進する組織体制だ。

例えば、グループ会社を多く持つ大企業であればあるほど、従業員の一人ひとりにまで理念や指針を理解してもらうことは難しくなるだろう。グループ会社と連携しながらSDGsに取り組むとなればSDGs推進の難しさはさらに倍増する。

しかし、全国に子会社を持つ大企業であっても、各地からメンバーを集い、グループ全体でSDGsを推進している企業がある。人材サービス会社として知られる、株式会社パソナグループだ。

今回は、株式会社パソナグループ常務執行役員の進藤かおり氏を取材した。パソナグループは、たくさんの子会社を持つグループ会社で、これまでグループを横断した組織を通じて、社会課題を解決してきた。

パソナグループは、社会問題を解決する大きな指針としてSDGsへの貢献を掲げ、グループを挙げて積極的にSDGsに取り組んでいる。

このインタビューでは大企業でSDGsを推進する術を執行役員の進藤氏から学ぶ。

社会課題に即した視点の事業開発を行い、雇用を生み出すことで社会を活性化する

――まずは自己紹介をお願いします。

進藤:株式会社パソナグループ常務執行役員の進藤かおりと申します。IRを担当し、投資家に業績や戦略について説明するほか、ESG関連についてもコミュニケーションをとっております。またもう一つはCBO(チーフブレイクスルーオフィサー)として、新しい事業創造を目的に社内起業家の支援や外部のベンチャー企業の支援をしています。

CBOは、事業領域や専門分野ごとに責任者が任命され、事業の成長を推進するとともに、グループの企業理念である「社会の問題点を解決する」を各領域で取り組む役割を担っています。

よく、パソナグループは人材派遣会社とご紹介いただくことが多いのですが、派遣の事業は全体売上の4割くらいです。

その他、人材に関わるサービスを網羅的に行なっており、私が管掌している社内起業家の支援でも色々な事業があります。

――ベンチャー企業の起業支援では、具体的に何をされているのでしょうか。

進藤:社員向けのインキュベーションファンドがあり、インキュベーションファンドは、社員が提案した新しい事業に対して、投資をしていくというものです。2013年からスタートし、これまでに17社が起業しています。

――外部のベンチャー企業も支援されているのですか?

進藤:外部のベンチャー企業もパソナグループと一緒に事業を推進しているところもあり、支援をさせていただいています。弊社オフィスの12階にインキュベーションラウンジがあり、外部から60社ほどのスタートアップの方にご利用していただいています。インキュベーションラウンジには、フリースペース、定席、ブースがあり、フリー席は月15,000円で利用可能です。

ーーベンチャー企業に特に注目している理由はなんでしょうか?

進藤:ベンチャー企業を支援している理由は、創業者でグループ代表の南部が45年前にベンチャー企業としてパソナを創った経験に基づいています。会社を起こして雇用を生み出し、雇用を拡大していくことが持続可能な社会課題の解決につながると私たちは信じています。そのため、新たな雇用の創出は我々にとって大きなミッションなのです。

――なるほど。雇用を生むことが社会課題の解決につながるんですね。

進藤:まさにその通りです。時代に即した新たな視点で社会問題の解決へと乗り出していくというイノベーティブな発想が持続可能な社会を創り、そして起業という形で雇用を創出するという2つの点から、新規事業開発やベンチャー企業の支援がSDGs達成への近道なのではないかと私自身考えています。

――確かに今、個の時代と言われている中で、会社だけに依存するわけではなく、個としても社会に何か利益を還元して、お金をもらうという構図を作っていくのは大切ですよね。

進藤:私たちはずっと社会の課題に注目し事業にしてきました。SDGsに沿って事業を起こすというよりは、我々が今までずっと社会課題に注目してやってきた事業が、SDGsにも当てはまっているイメージです。過去の事業がパソナのSDGs推進の取り組みに生きていると思います。

パートナーシップで地方創生からビジネスの拡大まで。

ーーパソナグループさんが問題意識を持っているのはどんな分野ですか?

進藤:注目しているのは、地方創生に関わる事業です。現在の日本において、少子高齢化の問題や地方での人口減少は無視できない深刻な社会課題です。特に、農業などの一次産業の後継者問題が深刻になり、日本の食料自給率もどんどん落ちています。そういった現状を踏まえ、2003年からは農業の人材育成、地方における新規事業の挑戦をしています。

都市から地方に働きかけていくのではなく、地方の力を生かして新たな事業を作り出していくことが、日本全体が元気になるために今必要とされていることなのではないかと思います。

――地方の雇用は、新型コロナウイルスによって痛手を負っていますよね。この状況をどうやって脱していけばいいと思いますか?

進藤:地方から上がってくる声や課題感にそった事業展開をするためには、企業も首都圏一極集中ではなく、地方の課題を共感して理解できる体制の構築は必要だと考えています。そのため、私たちは本社機能を分散して、本社の一部を淡路島に移転すると決めました。

また、東北地方でも震災以降、戦略ファンドを作って起業支援をしてきました。これは、10年前に東北で震災が起きたときに、ボランティア活動だけでなく、東北の地に産業を作らなければ復興にならないという思いから始めました。

地元をなんとかしたいという、地元愛と志の高い起業家を募集し、その方々に出資しています。この資金をもとに、これまでに5社のベンチャー企業が立ち上がりました。震災からは10年という月日が流れましたが、今もなお、私たちは事業サポートなど支援を続けています。これからも色々なところで雇用を創生できる施策を作っていきます。

日本中で、各地域に即した課題の解決につながる新規事業が立ち上げられるような支援を行っていくことが、私たちに求められていると考えています。新たな視点を持った人々が地域の人たちを巻き込んで、ともに成長していきながら課題解決に繋がっていくことが、日本全体の活力をあげることにもなると考えています。

――人材の会社こそ、SDGs推進におけるハブ機能を持つことが求められているような気がしました。まさに、SDGsの17番目がパートナーシップになっていますが、それについてはどうお考えですか。

進藤:大企業も、自分たちだけでは事業を継続させることができません。新しくイノベーションを起こしていくために、さまざまな企業とパートナーシップで繋がっていくことがすごく重要だと思います。

我々も既存のビジネスを大きく広げていくために、規模を問わず様々な企業と一緒に組んでお仕事をさせて頂いており、企業を超えた連携が大事であると考えています。

SDGs=事業開発。事業性のある活動で持続的に社会に貢献する

――パソナさんがSDGsの推進に関して行なっていることはありますか?

進藤:昨年の11月にSDGs委員会を立ち上げました。

――なぜ、SDGsの委員会を?

進藤:社会貢献活動と事業の両輪で活動していますが、今までの活動を改めてSDGsの側面から見せていく必要性を感じ、立ち上げました。

SDGs委員は、各事業の責任者や役員クラスの方で構成されています。今年の1月末に第1回目の会合を行いました。

ーー具体的にはどのような活動をしているのでしょうか?

進藤:社会貢献やCSRの観点だけでなく、事業に即した視点からも、私たちの活動がSDGsの達成に、どのように貢献しているのか、グループ全体から情報収集を行っています。

これまでもCSRの観点から社会貢献委員会という慈善活動やボランティア活動を推進する委員会や環境委員会がありました。我々の理念の中では社会貢献と事業活動が両輪となって初めて会社は持続可能な存在として前に進んでいくという考えがあります。社会貢献だけでは会社の状況によっては活動が制限されてしまうこともあり、持続可能な取り組みにするには事業として組み込んでいく、そして社会に必要とされる事業だからこそ継続的に発展もしていく。社会貢献と事業のどちらが欠けても成り立ちませんので、それをSDGsの観点から表現をしていくことと、SDGsの物差しを今までの活動に当て、更に進化させていくために、作られたのがSDGs委員会です。SDGsの視点を持ちながら事業活動を行うということが重要でその仕組み作りを目指しているのが今の段階です。

ーーSDGsを達成するためには事業へ取り込んでいくことが必要不可欠ということですね。

進藤:まさにその通りです。私自身、SDGs=事業開発なのかなと思っています。

時代に即して社会課題を捉え、それを事業にすることで、社会に受け入れられていくのだと思います。課題解決を事業に落とし込んで社会に発信していく姿勢が持続可能な社会を実現するための大きな鍵になっているのだと思います。

グループを横断した組織構造で、全国の子会社と連携

ーーパソナグループさんの特徴として、グループ会社との連携もされている印象を受けたのですが、  どのようにされているんですか。

進藤:パソナグループは良き企業市民としての役割を果たすべく、2005年に社会貢献室を創設しました。

社会貢献委員は社会貢献活動のリーダー的存在として、委員のイニシアチブにより、グループ各社社員はもとより、派遣登録スタッフやクライアントと共に活動を推進しています。

特に若い層の社会問題に対する意識を大事にしたいとの思いから、日本はもとより海外を含めた社会貢献活動の企画推進のリーダーとして、社会貢献委員を各地より40名選抜、全役職員を巻き込んで活動しています。

また、エリアリーダーという各エリアを統括する責任者が9名います。

また、各エリアの社会貢献活動は、実際に社会貢献活動を行うだけでなく、社内報で周知することや活動成果によって表彰するなど、事業以外の場面でも社会貢献することの大切さを感じてもらえるような活動も行っています。

――大企業ではSDGsに取り組む部署を作るだけで満足してしまうケースも見受けられます。全社を巻き込んでいくには、横串の組織を作っていかなければいけないということですね。

進藤:そうですね。各会社から上がってくる現場での課題に対して、エリアリーダーや社会貢献委員を中心に情報共有をしてアイデアを出しています。募金や、慈善活動など、情報共有しながら自分たちがやれることを模索している感じですね。

ーーこのような横軸の組織はどのようにしてできたのですか?

進藤:社会貢献委員や、SDGs委員会などの横軸の組織の原型になっているのが、Pasona Way本部という、企業理念を隅々まで浸透させることを目的としたパソナグループの本部です。

「社会の問題点を解決する」という企業理念こそがSDGsそのものでもあります。

本部では、会社の理念をしっかり伝えていけるような教育プログラムや、全グループの制作物などの情報発信とブランディング管理、社史編纂、人財教育、社会貢献活動など、パソナグループのブランディングに繋がる各種活動を行っています。

ーー全国からたくさんのメンバーいる社会貢献委員会の運営に関して、何か工夫されていることはありますか?

進藤:まずは、たくさんいるメンバーの活動状況を把握し、細かな課題感や興味を拾い上げていくことを日頃から行い続けること。地道な作業ですが、エリアリーダーが日々上がってくる意見を取り入れることで、より多くの情報交換ができるようになり、やれることの選択肢が増えていくんですね。なので、エリアリーダーが活動をしっかり把握し、細かなところもフォローアップしながらやっているのが、1つの工夫になると思います。

また、メンバーの意識向上の機会として、任命式や報告会など、自分たちの活動をしっかりと認識するような機会を設けています。

また、社内での表彰制度をこれから本格化させていく予定です。このように、会社全体で、個人であれ、チームであれいいことをしている人にはスポットライトを当てていく体制を整えることで、さまざまな視点からの社会問題解決への姿勢を従業員の間で育てていきたいと思っています。

ーーこれからも社会貢献委員会は残しつつ、SDGs委員会も行なっていくのでしょうか。

進藤:もちろんです。両建てでやっていきます。社会貢献委員会とSDGs委員会で相互作用が生まれることを期待しています。

社会貢献は人材育成制度の1つでもあるんですよね。ボランティアをやっているのではなく、そこで次のリーダーになる人たちを育てていくという考えで行っています。

社会貢献委員会で社会課題に対する意識を高めながら、事業開発を担える人材を育成。SDGs委員会ではそういった活動を通じて事業化したプロセスなどもしっかり発信していきたいと思います。

ーー社会貢献とSDGsへの取り組みの棲み分けがしっかりされているのが素晴らしいですね。

進藤:社会貢献の視点と事業の中にSDGsを取り込む視点どちらも持ち合わせていることが、社会問題解決への新たな視点を切り開いていくために大切な姿勢なのではないかと思っています。

おわりに

なぜSDGsはCSRの一環ではダメなのか。事業に組み込んで推進することの方が良くても、なぜ社会貢献活動のみではダメなのか。この問いかけに対し、説得力のある理由を答えられない人も多かったのではないだろうか。しかし、今回の取材でそこがクリアになった。

もしSDGsがCSRの一環としての位置付けだったら、企業の業績によってSDGsの推進活動が左右されてしまい、SDGsの目指す、持続可能な社会の実現とは逆行してしまうのだ。

子会社を抱える大企業は、そのリソースをうまく活用できればSDGsの推進に大きな影響力を持つ。社内でもパートナーシップを結び、一つひとつの活動に焦点が当てられる構造を築いているパソナグループは、大企業におけるSDGs推進においてもリーダーシップをとる立ち位置になるだろう。

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