【更新日:2021年9月15日 by 三浦莉奈】
企業のSDGsに対する取り組みが加速している。投資家にとっても、就活生にとっても、SDGsは企業を判断する1つの軸になっている。しかし、SDGsが目指すのは、「誰1人として取り残さない世界」。これを進めるためには、官民連携はもちろん、一般市民の協力も不可欠だ。
そこで、注目されるのが学校での教育だ。学校での経験や教育は、生徒たちの価値観形成に大きな影響を与える。また、生徒の意識や行動は、生徒の家族や、家族が暮らす地域にも発展する。
今回は、SDGs宣言都市である静岡市や、民間企業、学校周辺の地域と連携している静岡サレジオ高等学校のSDGs取り組み事例を紹介する。
生徒主導で企画された1週間のイベント「サレジオde SDGsウィーク」の内容や、放課後の自己探求の時間「サレジオ・メソッド」を活用した取り組み、またそれらの活動が実現した背景にある静岡サレジオ高校の教育理念を取り上げる。
見出し
「よき社会人」とは、自分の得意なことを生かして社会に貢献する人
ーーまず初めに、自己紹介をお願いいたします。
中村:静岡サレジオ高等学校で教頭を務めています、中村さとみです。
山田:同じく静岡サレジオ高等学校で数学教員を務めている、山田邦彦です。
ーー早速、教育理念についてお聞かせいただけますか。
中村:静岡サレジオ高等学校の教育理念はキリストの教えに基づいて、「誠実な人、よき社会人」を育てることです。これは、自分たちが神様から愛されているように、自分たちも互いに愛し合い、他者のために自分を生かしていくことを指します。
ーーこの教育理念を通してどんな社会を実現したいですか?
中村:先進国だけ良ければいいとか、自分さえ飢えていなければいいということではなく、全ての人と苦しみを分かり合い、共に幸せを感じられる社会になってほしいです。これはSDGsの誰1人残さないという考え方にも通じます。
日々のお祈りでも、自分が会ったことのない人のために貢献できることを探すというマインドがあります。
卒業式では、生徒たちに送る言葉として世の光という聖書を読んでいます。世の光になるとは立派なことをすることではなく、一人ひとりが与えられている能力や力を人のためや社会のために活かして欲しいという意味を込めています。
地域活性化から、SDGsへ
ーーなぜ静岡サレジオ高等学校がSDGsへ取り組むことになったのでしょうか?
中村:実は、サレジオとしてSDGsに取り組んでいることを全面的に出しているわけではありません。3~4年前、日本でまだSDGsが出はじめた頃に、本校の教育提携校である上智大学でパネル展を開催していました。そのパネルを借りて、校内に展示したのが最初です。
その後も学校全体としてSDGsに旗を振っていたわけではなかったのですが、2年くらい前に生徒のなかからSDGsに関わる活動をしてみたいという声があがり、SDGsの色が強まって来ました。
山田:サレジオには、放課後に自己探求の時間として生徒が希望する授業を取ることができる「サレジオメソッド」という取り組みがあります。その1つとして、「サレジオSDGs」という活動があり、SDGsを意識する前からフードバンクのように賞味期限切れの食べ物を集めて、地域の毎月の朝市である「草薙マルシェ」に出店していました。
その後、静岡市がSDGs都市宣言をして、静岡市としてもSDGsの盛り上がりが出てきたため、本校のある教師がSDGsに関わるメソッドを「サレジオSDGs」として統一したという経緯です。
生徒主導で始まった「サレジオde SDGsウィーク」
ーー静岡サレジオ高等学校では、SDGsに関するイベントが開催されているそうですね。(2021年3月取材当時)
山田:はい。春休み前で学校が午前授業になる1週間を使って、「サレジオde SDGsウィーク」という生徒が企画したイベントを行なっています。具体的には4つあります。
1つはSDGsと関連した授業をこの1週間の全授業で行うこと、2つめにSDGsに取り組む企業の講演、3つめにペットボトルのリサイクル機械の設置、4つめにSDGs標語コンテスト・インスタグラムの投稿です。
ーーこのイベントはどのような経緯で実現したのでしょうか。
中村:昨年の冬休みに学校に行った時、弓道部の子たちが「先生、お話があるんですが」と言ってきて、SDGsに関する授業を、SDGsウィークというイベントとして開催したいと提案してくれたんです。
イベントとしてやるのであれば、「他にも色々と企画してみたらどうだろう?」と私たちの方からも提案したところ、生徒たちがアイデアを出し合い、標語コンテストやインスタグラムの投稿、校内掲示などに発展しました。
ーーSDGsを組み込んだ授業!面白そうですね。例えばどんなことをするのですか?
山田:私は数学散歩という授業をする予定です。生徒たちを連れて草薙を散歩してSDGsの数学を探してインスタに投稿しようと考えています。各先生が教材をSDGsに絡め、授業を行います。
ーーSDGsに関する授業を通して、生徒たちにどんなことを伝えたいですか?
中村:授業の中で、教える側がSDGsを意識することで、授業を受ける生徒もSDGsを意識するようになってほしいと思っています。
授業を受けて終わりではなく、授業の中で感じた学びが自分の経験や進路につながり、生き方にも発展していくことで幸せな世の中や環境保全につながっていくと考えています。SDGsを通して、知識だけでなく質の高い「本当の学び」を実現していきたいです。
本当の学びというのは、自分事にするということだと考えています。自分の幸せだけでなく、周りの幸せ、見えない誰かの幸せも意識できるようになってほしいと思います。
高校生に人気の企業のSDGs取り組み事例から、社会問題を考える。
ーー企業の出張講義はどのようなことをしたのでしょうか。
中村:出張講義自体は静岡市がコーディネートしていて、静岡市から委託を受けた企業がSDGs達成に向けたそれぞれの取り組みを紹介して下さいます。
今回、「サレジオde SDGsウィーク」を行うということで、イベント時期に合わせて出張講義に来ていただきました。授業ではSDGsへの取り組みについてのプレゼンの後に、ワークショップにグループごとで取り組みました。
身近な企業の取り組みを知ることで、SDGsを自分事として考えることにつながります。
環境や社会問題について身近に感じてもらい、知るだけでなく次のアクションにつなげてもらいたいと思います。
ーーイベント企画の話が出たのが去年の冬ですよね。それより前から出張講義は決まっていたのですか?
山田:ちょうど同じくらいの時期ですね。先ほどお話ししたサレジオメソッドの一つで私が顧問をしている「草薙フューチャーセンター」で繋がりがあった企業に連絡をしたところ、すぐに返信が来てオンラインミーティングで相談をし、とんとん拍子で話が進んでいきました。
ーーもともとの活動の中で繋がりができて、それが今回にも生きたのですね。
山田:そうですね。普段からマメにお互いの情報交換をしています。
それと、静岡サレジオはスケジュールに余裕があり、突発的な話にも柔軟にスピード感を持って対応できます。その一方で、1年前にスケジュールが決まることもあります。良いと思ったことは何であっても取り組もうという雰囲気が好きですね。
生徒と社会を繋げ、学校を中心としたSDGs推進巨大組織へ。
ーー実際にSDGsを意識するようになって、生徒に変化はありましたか?
山田:以前よりも外に意識が向いて、自然と世界の話や困っている人の話が話題にあがるようになりました。
社会課題に興味を持ったり、視野が広がったりしているなと感じますし、人のために活動したいということを理由に進路選択をする生徒も増えてきている印象があります。地域の人や、保護者の方との関わりも増えました。
ーーこれからのサレジオ高校のSDGs活動の展望を教えてください。
山田:年に数回、大きなイベントを開催したいです。後は、SDGsを身近に感じながら学校生活を送れるような仕組みをつくりたいですね。
生徒には、ときには深く考えたり、ときには人に伝えたりしながら、自己成長や進路に役立ててもらえればいいなと思います。やはり、学校は子どもたちを成長させる場なので、そこが目的になりますね。ただ、それを基本としながらも、このような活動が地域に広がったり、社会に還元できたらいいですね。社会的にはまだSDGsの認知度は低いと思うので、学校が拠点になってSDGsのことを色々なひとに知ってもらいたいと思っています。
ーー企業もSDGsに取り組んでいますが、企業のSDGsと学校のSDGsの違いは、やはり生徒がいることでしょうか。
中村:そうですね。先生1人でSDGsを推進するのは限度がありますが、生徒が動くと地域のひとも保護者も卒業生も動けますし、学校がひとつの巨大組織になれると思います。
山田:サレジオには生徒と社会を繋げることが自然とできるSDGsコーディネーターのような先生がたくさんいますし、教員自身でSDGsに取り組んでいる方も多いです。とかく学校は閉鎖的であり、孤立してしまうことで社会を知らないままになってしまうことも多いですが、静岡サレジオは、社会とつながり、社会に開かれた学校であり続けたいです。
「サレジオ de SDGsウィーク」の企画者、星野杏奈さん
ーーまず初めに自己紹介をお願いします!
星野:静岡サレジオ高等学校1年(※2021年3月当時)の星野杏奈です。
ーーSDGsに興味を持ったきっかけは?
星野:中学2年生の時に、静岡市のイベントであるSDGs ウィークにレポーターとして参加したことです。SDGsコレクションとして、企業や参加しているブースに行って話を聞きました。このイベントがきっかけで、SDGsについてもっと知りたいと思い、翌年「サレジオSDGs 」という自己探求の授業に参加するようになりました。
ーーなるほど!「サレジオde SDGsウィーク」の名前はそこから来ているのですね。なんでイベントを企画しようと思ったのですか?
星野:本当は、静岡市の「SDGs ウィーク」にブースを出店したかったのですが、コロナでイベントが中止になってしまいました。私は「サレジオSDGs」の授業で啓発活動班に所属していて、何もやらないわけにはいかない!と思い、 SDGs ウィークをサレジオでやったらどうなるんだろうと考えるようになりました。
ーー思いついてから、実現するまではどんな風に準備したのですか?
星野:まず、全授業でSDGsに関する授業をすることがメインのアイデアであって、それを先生方に伝えて、それからは話し合いながら考えていきました。自己探求の時間と、SNSを使って話し合いました。
ーー企画をする時に心がけたことはありましたか?
星野:イベント全体として、堅苦しいものにならないように心がけました。文化祭もコロナでなくなってしまったので、少しでも思い出に残るようなイベントにしたいと思っています。全クラスのドアにつけたお花の飾りは、クラスの友達にも協力してもらいました。
ーーSDGsの標語コンテストの進捗はいかがですか?
星野:各クラスでSDGsに関連する標語を出してもらって、各学年主任の先生方と私たちと、生徒会の皆さんで4つに絞り込みました。これからグーグルフォームで全校生徒に投票してもらいます!
ーー星野さんご自身が興味のあるSDGsは何ですか?
星野:14番の、海の豊かさを守ろうです。
通っている塾の先生がプラスチックのことに詳しくてお話を聞いたことと、静岡県は海が近いし三保松原も近いので、海を綺麗に保ちたいという思いがあります。
ーー「サレジオde SDGsウィーク」を通して学校のみんなにはどうなって欲しいと思いますか?
星野:SDGsを知っていますか?というアンケートをとったところ、90%以上の生徒が「知っている」と答えていたので、サレジオでのSDGsの認知度は高いと思います。ただ、私が中学二年生でSDGsのイベントに参加した時のように、SDGsがまだ身近に感じられていなくて、遠い目標に感じていると思います。もっとSDGsを身近に捉えて、日常生活の中にもSDGsがいっぱいあることを伝えたいです。
ーー星野さんの、次の目標を教えてください。
星野:やはり、私が最初にSDGsに興味を持つきっかけになったSDGsコレクションに出店してみたいです。あとは、今週末に静岡市のSDGsに関するフォーラムに参加するので、それを成功させたいです。
ーー将来の目標はありますか?
星野:まずは大学への準備を頑張って、大学では国際関係やSDGsについてもっと学びたいです。また、ディズニーが大好きなので、出版社に入ってディズニーに関する雑誌をつくることも夢です。
ーー最後にメッセージをお願いします!
星野:SDGsは遠い目標ではなくて、身近にあるものなので、自分にできることから行動していきたいです。
ーーありがとうございました!
さいごに
高校生にとっての身近な社会人は、学校や塾の先生、親くらいである。
学校は生徒たちに勉強を教えるだけでなく、社会とつながる経験を与えること、また教員自身が「よき社会人」を体現していくことが社会から求められているのだ。
企業にとっても、行政にとっても、学校はこれからの社会をつくる若者と関われる場として注目されている。
SDGsとともに、学校から地域、社会へと広がるSDGsの輪こそが、SDGs17番の「パートナーシップで目標を達成しよう」のあるべき姿なのかもしれない。