アート引越センターでおなじみのアートコーポレーション株式会社は、日本で初めて引越し専業の会社として創業した。創業以来、引越しを運送業ではなくサービス業であると捉え、顧客の暮らしに寄り添い続けてきた。
アートコーポレーションはSDGsをどのように捉えて、どんな取り組みを行っているのか。
今回はアートコーポレーション 経営企画部の舛田様に詳しくお話を伺った。
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3700人の社員にSDGsを浸透させる仕事
ーーまずはじめに舛田様の自己紹介をいただけますでしょうか。
舛田:アートコーポレーション経営企画部の舛田と申します。普段は経営企画部で経営陣に対して、事業の報告や、経営判断をしていただくための材料を揃える仕事をしております。
また、社内での取り組みをSDGsに当てはめて、会社でのSDGsの認知度をあげるための発信もしております。よろしくお願いいたします。
ーー入社後ずっと経営企画に携わっていらっしゃるのですか。
舛田:2006年入社ですので、今年で16年目です。これまでに一般のお客様のご自宅にお伺いして引越しの見積もりをする一般営業職、全国の営業担当者を教育する営業推進課、関西受注センターという関西圏のコールセンターで勤務しており、その後経営企画部に異動してきました。
「引越しはサービス業」。創業時から変わらない、常にお客様の視点に立ったサービス
ーーアートコーポレーションの事業について教えてください。
舛田:アートコーポレーションは1976年に、日本初の引越し専業の会社アート引越センターとして創業しました。創業以来、引越しを運送業ではなく、サービス業と捉えて事業を発展させてきました。現在は約3700名ほどの社員が働いています。(2021年5月 取材当時)
常にお客様のより良い暮らしのお手伝いができればと思っています。お客様の「あったらいいな」という声を大切にして、お客様の視点に立ったサービスを提供しております。
ーー引越しがサービス業という捉え方はどのように生まれてきたのでしょうか。
舛田:引越しはお客様の人生の転機となるタイミングです。単純に物を運ぶのではなく、思い出やお客様のさまざまな思いも運びます。そのため、引越をサービス業ととらえ、お客様の新生活がより良いものになるようにサービスを展開し、さらにCSR活動にも取り組んできました。
お客様のためになることを第一に考えた先にあったSDGs
ーーアートコーポレーション様がSDGsへの取り組みを始めたのはいつからですか?
舛田:アートコーポレーションのホームページにSDGsを載せたのは2018年からです。今までも私たちは、創業当時から大切にしてきた思いのもと常にお客様のために何ができるのか創意工夫をしてきました。
SDGsのために取り組んでいたというよりも、今まで私たちが取り組んできたこととSDGsの考え方が合致していたため、SDGsに当てはめて取り組みをとらえるように整理しました。
お客様のためになることを第1に考えて実践してきたことが結果的にSDGsにつながっていました。その代表例が、エコ楽ボックスです。
エコ楽ボックスとは、ダンボールや緩衝材を使わずに食器を梱包するプラスチック製のボックスで、2008年の7月からサービスの提供を開始しました。
それまではダンボールをはじめとした紙資材を使用しており、特に食器は割れないように非常に多くの紙の資材が必要でした。
エコ楽ボックスは中の仕切りに食器をそのまま詰めるだけなので、一切紙の資材を使用しません。また、お客様の梱包や開梱の手間を省くことができ、効率化にも繋がっています。
ーーダンボールなどの紙を減らすだけでも大きな影響がありそうですね。食器だけに対応しているのでしょうか。
舛田:靴を入れるエコ楽シューズケースやハンガーに洋服をかけたままお運びできるエコ楽ハンガーケース、テレビ用のエコ楽テレビケース、照明用のエコ楽照明ケースなど、エコ楽ボックスのシリーズは多岐に渡っています。エコ楽ボックスを使って、ゆくゆくはごみがでない引越しを実現したいと思っております。
ーーエコ楽ボックスを使った結果、何かいい効果はありましたか?
舛田:社内で試算したところ、緩衝材の使用率が約22%ほど削減できました。1年間で使わなかった緩衝材の総面積は、東京ドーム約48個分に相当します。
当事者の声から始まった、女性活躍推進プロジェクト”Weチャレンジ”
ーー女性が働きやすい環境づくりにも注力されているそうですね。
舛田:アートコーポレーションは創業者が女性のため、女性目線のサービスは多く展開してきたのですが、女性が働きやすい環境は誰にとっても働きやすい環境という考えのもと、従業員向けの取り組みもしております。
例えば、女性従業員からなる社内プロジェクトの”Weチャレンジ”です。このプロジェクトでは自らが主体的に考えて実行し、健やかに働ける環境を作ることを目的としています。
”Weチャレンジ”では、全国の女性従業員を集めたレディースミーティングの開催や、全国の女性従業員を取材したスマイルだよりを発行しています。これにより、女性従業員の声が全社に届くようになりました。
ーー確かに引越し業界は男性のイメージが強いですね。
舛田:物流業の中では女性従業員比率というのは高い方なのですが、やはり引越しというサービスの特性上、男性の方が比率が高くなるのは事実としてあります。
ただ、女性の引越スタッフの比率は2年前の16%から徐々に上がり、現在は18.4%です。
これは”Weチャレンジ”の効果はもちろん、新たな役職であるレディースリーダーの効果もあると思います。レディースリーダーは支店やブロック単位で女性目線の研修を行っており、女性の活躍する場が広がってきています。
ーー”Weチャレンジ”やレディースリーダーの導入を通して得られたメリットを教えてください。
舛田:スマイルだよりの発信などを通して、社内の理解や協力が得られるようになりました。また、支店と本社の垣根を越えて横のつながりを作ることができたのは非常に大きな成果だったと思います。
業界初の定休日制。従業員の満足度がいい仕事につながる。
ーー業界初の定休日制を取ることになった経緯を教えてください。
舛田:それまで、アート引越センターでは、従業員はシフト制で、年末年始を除いて年中無休で業務を行ってきました。働き方改革として、さらなる労働環境の改善や従業員の健康を考える必要があり、2017年の8月に全国の支店を対象に、業界初の定休日を導入しました。
ただ、この定休日も引越し依頼が増加する3月末~4月上旬、いわゆる繁忙期や、引越しが集中する月末は除いて設定しており、極力お客様にご迷惑はかけないように配慮しております。
ーー定休日を導入したことによって、働き方はどのように変わったのでしょうか。
舛田:定休日を導入したことにより、従業員からは休日の過ごし方を今まで以上に計画的に行えるようになったと好評です。
新型コロナウイルスの感染拡大前には、バーベキューやスポーツなどみんなが集まってできるイベントを行っていました。これにより従業員同士の関係が深まって、仕事に対してのモチベーションアップにもつながっています。コミュニティの活性化につながりました。
アート引越センターでは2013年から年に1度、全国で引越し技術を競う“引越技術コンテスト“を開催しているのですが、これを定休日に行うことによって、全国から応援団が集まり、さらに盛り上がりを見せています。
引越技術コンテストではお客様の対応マナーや、運搬技術、梱包技術、運転技術などをブロック対抗で競っています。
ーー定休日を作ることで経営的なインパクトはありましたか。
舛田:定休日を導入するにあたり、経営リスクについてさまざまな検証を行いましたが、結果的に業績にも影響はなく、従業員の満足度が上がり、彼らのパフォーマンスが上がることでお客様の満足度も上がるといういいサイクルになっていると思います。
SDGs特集コラムで社内認知度を上げ、従業員と役員の話し合いで出てきたアイディアをSDGsとして企画する
ーーアートコーポレーションのSDGsの取り組みはどのように生まれているのでしょうか。
業務提案制度という制度だけでなく、従業員と役員が意見を出し合う“ひらキラ会”があります。「ひらキラ」とは、ひらめきとキラめきを指します。それらの中から出てきたアイデアを最後にSDGsの形に当てはめるのが、経営企画部です。
全社として、非常に風通しはいいと思います。やるぞと言ったらスピードはどこの会社よりも早いと思います。
ーー今までにSDGsを推進するにあたって、苦労したことはありましたか。
舛田:グループ会社も含めた全社員にSDGsを浸透させることが一番苦労してる点です。
SDGsという名前で世界的な目標が掲げられていることを知っている人はまだまだ少ないと思います。全従業員に知ってもらえるよう、わかりやすく伝えることを心がけています。
ーー社内でSDGs という概念を浸透させるためにされてきたことはありますか。
舛田:今、経営企画部を中心に「私たちのSDGs特集コラム」という、SDGsを題材にしたコラムを定期的に全社に発信しております。社内報のイメージがわかりやすいかと思います。社員や従業員に、メールで発信し、また社内の共有システムから閲覧することもできます。
コラムではアートコーポレーションの取り組みがどのようにSDGsに関連しているのかを伝えるなど、認知度の向上に向けて活動しています。
また、海洋プラスチックごみ削減のためにグループ会社、全従業員にエコバッグを配布しました。そのエコバッグにはアートコーポレーションのロゴマークとSDGsのシンボルマークがあしらわれており、従業員一人ひとりにSDGsについて知ってもらうきっかけになったと思います。
今後の展望
ーー今後がどのようにSDGsを推進していきたいかをお伺いしたいです。
舛田:2030年までに地球環境にも優しい資材を新たに開発し、ごみゼロの引越しを実現することが目標です。引き続きお客様のあったらいいなという気持ちを大切に、お客様の視点にたったアート引越センターらしい高品質なサービスを提供していきたいと思っています。
技術の進歩などの問題はもちろんありますが、やはり何か目標に向けて取り組まないと絶対達成はできないと思いますので、まずは2030年を1つの目処に目指していきたいです。
最後に
紙資材を使わずに食器を梱包できる「エコ楽ボックス」や、業界初の定休日の導入など引越し業界を革新していく斬新な取り組みがなされているアートコーポレーション。
お客様目線で高品質のサービスを提供するために行ってきたことが環境保全や従業員の満足度の向上にも繋がっていることがわかった。
2030年、進化した引越しの実現に向けて今日も走り続ける。