「諦めずにピンチをチャンスに変える」TBMがLIMEXで起こすサステナビリティ革命

#サスティナブル#技術#持続可能#経営 2021.09.24

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TBMは石灰石を主原料とするプラスチックや紙の代替素材「LIMEX」で大きく注目を浴び、国内スタートアップ想定時価総額ランキングでも上位にランクインする日本を代表するスタートアップ企業だ。

SDGsの注目が高まるずっと前からサステナビリティの重要性に目をつけ、代表の山﨑氏は数々のピンチを乗り越え、チャレンジを繰り返してきた。

この記事では、SDGsに取り組む企業が増加の一途を辿る今、サステナビリティ経営の第一線で活躍を続ける株式会社TBM 代表取締役CEO 山﨑敦義氏の独占インタビューをお届けする。

この記事をきっかけに一人でも多くの人が、SDGsの目標を達成するための一歩を踏み出してもらいたい。

0から1を生み出す難しさ|茨の道の中でピンチをチャンスに変えるTBM

ーーTBMの創業のきっかけを教えてください。

20歳で起業してから、さまざまな経験をして、その中で失敗もたくさんしてきました。グローバルなチャレンジをしようと思ったのは30歳の時に旅行で行ったヨーロッパがきっかけです。私は元々大工をしていたので、0から作り上げた新しいモノに価値を感じる世界しか知りませんでした。歴史ある建物は、観光地のイメージだったのですが、歴史ある建物や町に人が暮らしているのを見て衝撃を受けたんです。起業してから何とか生き残って少し時間に余裕もあった中で行ったヨーロッパだったので、より一層感じるものがありました。

僕は何百年も生きられないけど、何百年も挑戦し続けていける会社を残して、起業家としての現役を終えたいと思いました。何百年もグローバルで挑戦し続けていく会社で、わかりやすく世の中の役に立つ事業をやっていきたい。

また、ビジネスモデルが成功して、利益が出だしたらチャレンジもせずにハングリーさを失うのは全然かっこよくないし、僕はそういう生き方は選びたくない。どこまでも自分が挑戦し続けていくと決めて、より大きな事に挑んでいかなきゃと思って、兆のつくような事業をやろうと思ったんです。

こんな想いを持って日本に帰ってきて、グローバルで兆のつくような事業でわかりやすく世の中の役に立つモノを探してたんですけど、中々見つかりませんでした。そのときに、とある知り合いの社長が台湾で「面白いものを作っている企業があるぞ」と渡されたのが、ストーンペーパーでできた1枚の名刺でした。面白いなって思って、国内の輸入元になるために、台湾に行きました。

その時は、ヨーロッパで感じた想いを実現できる事業とは思っていませんでしたが、マーケティングを行う中で、びっくりするほど有名な企業からたくさんの問い合わせが来ました。問い合わせをくれた企業の人とお話する中で、潜在的な価値や、社会的な意義を知り、グローバルで展開できる可能性を感じました。

しかし、期待は大きい一方で商品は全然売れませんでした。品質改善した商品が日本で通用すれば、世界中で通用するから頑張ろうと台湾のメーカーに品質改善を要求したのですが、話が折り合わず、それならば腹をくくって自分たちで独自の技術による自社開発をやろうと決めたのが10年前です。

ーー創業時からぶつかった壁はありましたか?

困難だらけでしたね。プラスチックでも紙でもない新素材を供給していく中で、単にモノを作って売るだけでなく、新たなルールをつくったりとか、今のルールの中でどのように共存していくかとか試行錯誤の繰り返しでした。

私達の素材が異物のように思われたり、正しいことを正しくやっていても、いろんな意見を言われることもたくさんありました。

1番最初、中学を出て大工の見習いをやってた僕が、いきなり「何十億も集めて工場を作るんだ」と言った時には、周りの経営者仲間からも「山ちゃんはおかしくなった」とか「やらん方がええで」とか「やった事もない人が何言ってんだろうか。」と言われましたね。

ーーそんな中、味方を増やしていったからこそ、今のTBMがあると思います。なぜ、多くの味方をつけることができたのでしょうか。

課題があったときに、その課題を解決するために、その道で知見がある人に会いに行くことを重視していました。自分から会いに行って想いを伝えて、やりとげたい未来や自分の想いを話し、力になってほしいと伝えて、「それなら」と力を貸してくださることが多くなっていきました。

0から1を生み出していくような事業に対しては、損得やリスクで判断すれば、投資をしようとしてくれる人は少ないと思います。

最初に工場を作った際には、経済産業省が最後の最後で補助金を採択してくれて、そして残りの資金を集めました。それでも、最初の1年半は売れるモノができず、車1台分くらいのお金を払って原材料を買って、工場に通して、不良品ができて…のサイクルを繰り返していました。さらに不良品を処分するのにもお金がかかるんです。

もしこれが10年間続いたら?と考えたら、その課題を解決するために、当時は必死になって知恵を借りていましたね。

そこで発想を転換して、ゴミになった不良品からプラスチックを代替する素材開発を行いました。耐久性や耐水性の評価を受けていたので、プラスチックの代替として開発できるのではないかとプラスチック成形会社の方と話をして開発を進めていきました。工場完成から1年半をかけてシート製品が売れるようになり、その1年後くらいからマイクロプラスチックの問題が大きく注目されるようになったこともあり、ピンチのときに諦めずにチャンスに変えて本当によかったと思っています。

ーー周りの環境が変化する中、諦めない気持ちで、粘り強く周りを巻き込むことが重要なんですね。最近では、新型コロナウイルスの感染拡大によって、周りの環境も変化しています。どのように社会の変化を捉えていますか?

いい意味で変わったところもたくさんあると思います。SDGsの認知度が上がっただけでなく、サステナビリティが注目され、気候変動などの問題を解決し、地球全体の未来にみんなで向き合って考えるきっかけになったと思っています。あわせてTBMの事業を応援しようという機運も高まったと思います。

一方で、新型コロナウイルスの拡大によってリモート勤務の体制が増えて、企業によっては新しい素材に切り替える意思決定が難航するというケースもありました。また、新型コロナウイルスの感染拡大のタイミングで、資金調達を行おうとしていたんですが、日経平均株価が2万円を割った際に、軒並みその話がなくなってしまい、大変でしたが、すぐに心を切り替えて、ピンチをチャンスと捉えました。その結果、100億円を調達することができ、会社を守り、成長の機会に変えることができました。

現在は、日経平均株価も回復しだし、提携の話も増えてきています。

ーー本当にピンチとチャンスを繰り返す中で、TBMを大きくし続けているんですね。

「そんな精神状態でよく生きてますね」とよく言われます。しかし、こういう状態がずっと続くと当たり前になって平気になります。

今でも大きな先行投資をしています。日本国内でコロナ禍で70億円を投資して大きな工場を完成させました。一度計画を止めるかという話もありましたが、ここで遅らせればさまざまなことに対して遅れが出てしまいます。

「1年で10年分の成長をする」と個人としても会社としても心がけているので、止める選択肢はありませんでした。

ーー国内でも最も注目されるベンチャーとして注目されるTBMでも、未だにピンチを乗り越え、茨の道を突き進んでいるんですね。アイデアを社会に広めるにも小手先の方法論ではなく、結局は想いをぶつけ、行動を続けていくことが重要なんですね。

テーマが大きければ大きいほど、課題も大きくなり、向き合う相手も大きくなります。小手先の方法論では、相手は見抜いてきます。

コロナ禍で海外の事業会社との提携の話を水面下で続けてきました。そして韓国の大手財閥SKグループの投資法人SK Japan Investment Inc.(SK日本投資会社)と135億円の資本業務提携に合意しました。

彼らが今後サステナビリティに力を入れ、素材開発をしていく上で、世界中のスタートアップの中からTBMを見つけてくださいました。SKグループのようなグローバル企業と100億円を超える資本業務提携を合意しようとすると、小手先のやり方ではなかなかうまくいきません。

だからこそ、一緒になって世界の未来のために大きなチャレンジをすることを確認しながら、タフな交渉を相手と続け、合意に至りました。

ピンチでも諦めないだけでなく、タイミングを逃さないことも重要です。中国が2020年に環境保護を目的に使い捨てプラスチックの使用禁止方針を打ち出しました。あわせて、土に還っていく生分解性のプラスチックの推進が国策になったんです。しかし、生分解性のプラスチックは単価が普通のプラスチックの2.5~5倍ほどしてしまう課題があります。それを生分解性LIMEXで代替することで、価格を下げることができます。このタイミングを逃さなかったことも重要です。

ーータイミングを見計らってリスクをかけにいくことが重要なんですね。

TBMはスタートアップでリソースも限られています。そんなに多くの空振りはできません。だからこそ、二の手、三の手を打っておくことも重要です。

スタートアップ界隈では、さまざまな話が決まりきらなくて、手を緩めてしまった結果、資金が枯渇して事業が存続できないケースもあります。今回の資本提携も最後の最後までどうなるかわかりませんでしたが、粘り強く交渉を続けながら、慎重かつ手を緩めずにさまざまな成長戦略を練っていました。

何が起こるのかがわからないことを常に考え、ネガティブ・ケイパビリティ(不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力)を持ち続けていました。

海外にはSDGsの課題を体感している人がたくさんいることを感じる重要性

ーー​​コロナ禍になって、SDGsの注目が日本でも急激に高まっています。サステナビリティの領域で展開してきた山崎社長からはどのように日本社会が映っていますか?

SDGsへの注目が高まって我々がやり遂げたい事業に対する追い風が吹くのは大歓迎なので、ありがたいことだと思っています。

しかし、SDGsの17の目標を目の前にしたときに、自分たちの日々の暮らしの中にSDGsの目標に体感値がある人は日本ではほとんどいないのではないでしょうか。

どうしても日本人はボランティアや社会貢献的なイメージで考えてしまい、「SDGsを取り込んでいる」という企業に対して、「広告に利用している」という意見もあるのではと感じています。

SDGsでは「だれひとり取り残さない」という目標を掲げていて、私たち先進国側が優先的に取り組まなければならないと考えています。最近、当社と一緒に事業を展開したいと言ってくれる海外の方たちは、自分の国を良くしようと思って戦っている方ばかりです。

そういう方たちと正面から向き合って課題解決をしたいと考えています。困難に直面している国々の人と実現したいSDGsの目標の達成のために、SDGsへの注目の高まりがプラスになったらありがたいです。

ーーSDGsに掲げられた社会課題の現場を知ることも重要でしょうか。

やはり見て感じることが1番だとは思いますが、自分の経験の中で相手が言っていることをリアルにイメージしたり、感じる力があるかが大切です。

だからこそ、自分も含めてメンバーが海外で見たり感じたことは、出張報告を社内でも共有するようにしています。実際に現地を見ていなくても、例えばモンゴルの国家開発庁長官を迎えた際に、モンゴルの現状について語っている姿を見るだけで、必死になって国の未来のために戦っているかを感じ取れて、一緒になって貢献できることをやりたいという思いが芽生えます。

見て感じることも重要ですが、行ってみなければ感じられないということはないと思います。

ーーこれからの展望を教えてください。

先述のSKグループとの資本業務提携のように、私達の素材を国内外へ圧倒的スピードで拡大させていきます。また、神奈川県横須賀市で、使用済みのLIMEXや廃プラスチックを回収し、自動選別・再生する国内最大級のリサイクルプラントのプロジェクトを発表しました。LIMEX 製品の更なる普及や、プラスチックを巡るサーキュラー・エコノミ ーの実現に向けて、先進的な資源循環モデルの構築を推し進めていきます。

最近は、デジタル革命のようにAI革命などと言われていますが、私たちは次にサステナビリティ革命を起こさなければいけないと考えています。

サステナビリティ革命を通じて私たちが世界の中でトップを取っていくうえで、日本に従来からある三方良しというカルチャーは武器になります。

世界を回る中で日本の企業に対する尊敬や感謝や期待を感じることがとても多く、これは先人がやってきてくれた恩恵だと思います。

以前、アジアのある国へ行った際に、工場の案内をしてもらって、そこで働いている方たちが目をキラキラさせながら自分たちの未来を語ってくれるんです。これから人口が増えて経済成長していって、どんどん豊かになるんだと。

こういう人たちから感じるエネルギーを受け取って一緒に成長していきたいです。

また、SDGsを目標にするのではなく、社会貢献を一番の目的にして事業展開をしなければいけないと思っています。TBMでは、全員が同じ船に乗って、ビジョンの実現に向けて遠くまでみんなで漕いでいこうという意味を込めた「Same Boat」というキーワードを用いています。サステナビリティ革命を起こすべく、SameBoatで前に進んでいきたいと思っています。

おわりに

今回の取材では、TBMのサステナビリティへの考え方や今後の展望についてお話を伺うことができた。

山崎社長の世界へ挑戦する姿勢や社会全体への貢献がさまざまなパートナーシップにつながり、大きな絆になるだろうと確信できた。

SDGsを日常に、そして経験にするためにわたしたちはどのように変わるべきだろうか。自分にとっての使命とはどのようなものか考えていきたい。

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