ディスカウントストア事業を中心に、さまざまな事業を展開するPPIH(株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)。特に中核業態であるドン・キホーテを利用したことがある人も多いのではないだろうか。
1978年に前身となる雑貨店を開業して以来、消費者へ便利さ、安さ、楽しさを提供し続けている一方で、2020年11月にはダイバーシティ・マネジメント委員会を立ち上げ、積極的な改革にも力を入れている。
今もなお、急速に成長し続けるPPIHは持続可能な社会を目指してどのような取り組みを行っているのか。
今回は、ダイバーシティ・マネジメント委員会を立ち上げたPPIH初の女性執行役員、二宮氏を取材した。入社以来、デザインを通してPPIHを支えてきた二宮氏のダイバーシティ推進に向けた具体的な施策について伺う。
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デザインは経営資源
ーー自己紹介をお願いします。
二宮:PPIHの二宮 仁美と申します。
ダイバーシティ・マネジメント委員長でダイバーシティを推進するほか、クリエイティブ本部長を兼任しデザインの領域も担っています。2005年に入社し、昨年(2020年)の11月に執行役員になりました。
元々はデザインが専門で、入社以降店舗デザインを主に手がけてきました。現在はクリエイティブ本部としてプライベート・ブランドの商品デザイン、コーポレートデザインも含め、PPIHのクリエイティブ分野全般を幅広く手掛けています。
ーークリエイティブ本部としてブランディングに重点を置いているんですね、
二宮:PPIHは、今もグループとして急成長している会社のため、さらにデザインという概念が必要になってきます。これからも持続的に成長していくために、戦略的にデザイン分野からの貢献をしていきたいと考えています。
デザインの考え方を反映したダイバーシティ推進
ーー2020年にダイバーシティ・マネジメント委員会が立ち上がったと伺いました。どのようなきっかけがあったんですか?
二宮:執行役員に任命していただいたときに、女性初の執行役員ということで、経営陣から2つお話をいただきました。それがダイバーシティとクリエイティブの推進です。
やり方は一任していただけるということだったので、委員会の立ち上げを経営陣に提案しました。ダイバーシティ推進をするときに、組織的な取り組みが必要と考えたからです。
今までPPIHグループでダイバーシティの推進がされてなかったわけではありません。そもそも経営理念である「源流」に「多様性を認めよ」と謳っております。また、これまでもダイバーシティ推進のためのいくつかのプロジェクトが立ち上がっていました。
例えば、従業員が妊娠した場合にどんな書類を書き、どんな手続きをすればいいのかを1つにまとめた”サポートキット”の作成などの施策をやってきました。これはある一定の効果を発揮しましたが、企業の成長につながるまでの戦略的なものではありませんでした。
そこで、長期的にダイバーシティを推進していく委員会を正式に立ち上げました。メンバーは決定・実行権を持った部長レベルの人財で構成されています。
ーー実際に昨年11月に立ち上げてから、どんな周期で活動されてるんですか。
二宮:月に2回委員会を開催しています。
立ち上げてから2020年いっぱいは実態調査をしました。社内の女性の活躍や管理職の男女比率を数値化し、分析して、どのような順序で課題解決に取り組むのかを明確にしました。活動目標が決まると年末には戦略も決定しました。
戦略を「各ステージ」と呼んでいて、「採用する」→「勤める」→「管理職に上がる」→「役員に上がる」→「企業の成長につながる」という5つのステップを設定しました。この各ステージを循環させることを意識しています。各ステージにおいて、メンバーが連携しながら何をやるかを決めて、その推進状況を委員会で逐一、全員で共有しています。委員会は、いわゆる事務局的な立場です。
ーー持続的な会社を目指す上で、幅広い視点で考えるようになったきっかけはありますか。
二宮:私自身が20年以上デザインに携わっていることが役に立っています。そもそもデザインとは「問題解決」です。デザインする対象のことを調査して、問題点を見つけて、解決するコンセプトを考えて、それを形にする。
デザインをするにあたって、対象をよく知ることを心がけています。このデザイン的思考をダイバーシティ推進にも応用しています。
調査して計画を立てることは基本なので、まずはPPIHの過去の取り組みを調べ、分析しました。 戦略を立てて、効率よくしっかりと結果を出していくのが私の役目と思っています。
目指せ!女性店長100人誕生!“RISE!100”の取り組み
ーーダイバーシティ・マネジメント委員会として具体的にどのようなことに取り組まれていますか。
二宮:先程紹介した、各ステージの中でも、ダイバーシティ・マネジメント委員会としては特に「女性を採用する、女性をやめさせない、女性を管理職に登用する」というステージ1・2・3の部分にまずは力を入れています。
このうち、ステージ3の管理職登用に関わる取り組みが“RISE!100“というプログラムの実施です。
現場の管理職の第一歩として、PPIHの主力事業のひとつであるドン・キホーテの女性店長を増やそうというプロジェクトです。
ーー今までは、女性店長はほぼいなかったんですか?
二宮:ドン・キホーテの394店舗中、9名しか女性店長はいませんでした。“RISE!100“を通して、100人の女性店長誕生を目指しています。
2021年5月1日から第一期を始め、参加者を募ったところ、店長をやってみたい、興味がある、あるいは上長からの推薦で女性社員が86名集まりました。参加者には毎週1回30分間のWeb研修を受けてもらいます。
ーーどんな内容の研修なんですか。
二宮:まず最初に、店長に対するイメージのアンケートを取り、出てきた意見をもとにプログラムを組みました。店長としての心構えだけでなく、接客対応法や数値分析のノウハウなど、店長業務に必要なスキルを学べる全17回のカリキュラムになっています。
全17回のカリキュラムを受講し、卒業生になると、店長候補者として候補リストに入り、店長に抜擢される際にチャンスになります。
さらに相談窓口も作ってサポート体制を整えました。座談会なども行っています。
ーー 座談会をしていく中でなにか感じることはありますか。
二宮:身の回りに女性の社員自体が少ないということもあり、「女性で活躍している人を見ること自体がすごくうれしい」、「モチベーションが上がった」という声が多く聞かれました。
“RISE!100”のWeb研修では、参加者である86名の女性が集まって顔を合わせるので、「同じように頑張っている女性社員がこんなにいるんだ」といった心のつながりが生まれることを強く感じてます。
孤独を感じる女性社員が多い中、“RISE!100”を通じてコミュニケーションを取ることで、今後も悩み相談ができるつながりも生まれると思います。目指す姿を示しあったり、一緒に頑張れる仲間つくることができ、とても手ごたえを感じています。
ーー今年中に1人くらいは女性店長が誕生するかもしれませんね。
二宮:実は、この取り組みを開始してから、すでに3人、女性店長が誕生したんです。(2021年8月時点)
短期間で成果をあげることができたポイントは支社長と呼ばれる上司を巻き込んだことだと思います。“RISE!100”では自薦だけでなく他薦でも参加者を募りました。地域ごとに店舗をまとめる102人の支社長に声をかけて、管轄する支社の中で見込みのある女性を推薦してもらえるように声をかけたんです。
そうすると新たな店長が必要になった時、推薦して研修を受けた“RISE!100”の参加者が自然と候補に挙がります。
女性と男性、両者へのアプローチを図る“キヅキセミナー”
ーー他にも社内での取り組みがあると伺いました。
二宮:人財活性部という部署が主催している“キヅキセミナー”があります。このセミナーは女性活躍に限らず、現場の一線で活躍するベテラン先輩社員からの教育や研修といった学びの場を設けるという意図で行っています。
大学での講義のように、時間割を公表して見たいコマを見るといったスタイルのWebセミナーで、 その中で私は“ニノの部屋”というコマをいただいてます。
いろんな先輩の姿を知ることはモチベーションにつながると思うので、活躍している女性社員を1人ずつ呼んで40分くらい対談をしています。今までしてきた仕事や、挫折したことなど、今に至るまでを赤裸々に語ってもらって、最後に質問や悩み相談と行った対話の時間を設けています。
ーーセミナーは受講者の方は全員女性というわけではないってことですよね。
二宮:見たい人が見る仕組みなのでさまざまな人が見ています。私のコマは女性が多いですが、男性管理職の方で見てくださってる人もいますね。
ーーある意味、受容性を高めていくというところにもつながっているのでしょうか。
二宮:それもあります。時折“キヅキセミナー”の中で男性管理職向け講義も行っています。女性の意識改革だけでなく、まだまだ男性が多くを占める管理職の意識改革も必要ですよね。両方に対してそれぞれアプローチすることを意識しています。
男性へのアプローチということで、2021年7月に幹部研修という管理職側に向けた意識改革も行っています。 女性活躍を推進する上で当事者となる幹部に、女性活躍推進の重要性や推進のコツ、アンコンシャス・バイアスを理解してもらう意図があります。
「発信」は継続した活動をするために必要なこと
ーー何をしていくか、仕組みを整えるだけでなく発信にも力を入れているんですね。
二宮:“ニノの部屋”ではWebセミナーの内容を記事にして、社内報のダイバーシティページに掲載しているので、時間がない人でもいつでも読めるようにしていますね。
発信はとても大事だと思っています。過去の女性活躍プロジェクトが成果を上げきれなかった原因の1つに認知度の低さがありました。一生懸命やっていても知ってもらわなければ、効果につながりません。そこで社内認知度を上げるためにさまざまな工夫をしています。
ーー“キヅキセミナー”と“RISE!100”以外にもなにか新しい取り組みはありますか。
二宮:福利厚生の充実にも力を入れています。例えば家事代行サービスの会社と提携し格安で利用できるようにしました。私も家事代行サービスを利用しているのですが、女性も働く今の時代ではこういうサービスの利用も選択肢の1つだと思います。企業枠を持っている保育園との提携もしています。
ーー今後は、PPIHをどんな会社にしていきたいですか。
二宮:PPIHは実力主義の会社です。性別も、年齢も、国籍も関係なく自分の能力を自分の得意分野で発揮できることが大前提です。しかし、日本における女性への負担は大きく、平等とは言えません。女性が最大限能力を発揮できるようなフォローを会社側からしていくことが重要だと思っています。
女性が自分のやりたいこと、こういう人生にしたいと思ったときに、この会社でよかった、この会社だから自己実現ができたと思ってもらえるような会社にしたいと思っています。
さいごに
今回の取材を通して、PPIHのさまざまな取り組みには一貫した「デザイン」の考え方があることに驚いた。
問題を分析し、課題解決のためには何が必要なのか、考えアプローチしていく。「平等な実力主義」を目指すことが働きがいに、そして持続的な企業の成長にも繋がるということがわかった。
デザインの力でダイバーシティ推進を図るPPIH、これからの取り組みにも期待が高まる。