【更新日:2021年5月31日 by 佐野 太一】
お笑い芸人とSDGs。一見すると想像もつかない組み合わせだが、お笑い芸人がSDGsについて楽しく、わかりやすく教えてくれる授業を全国の学校や企業に届け、SDGsの普及に大きく貢献している企業がある。株式会社笑下村塾である。
株式会社笑下村塾は、お笑い芸人かつジャーナリストで、最近は時事YouTuberとして活躍しているたかまつななさんが経営している企業として知られている。
今でこそ多くの人に知られるようになったSDGsだが、SDGsの普及の裏ではさまざまな企業の取り組みがあることを忘れてはならない。
今回はたかまつななさんと共同代表を務める株式会社笑下村塾の相川美菜子さんにお話を伺った。気になる出張授業の内容から、笑下村塾の今後の展望、目指している世界観までを取り上げる。SDGsに関する日本の現状の課題、SDGsの取り組みを始めようとしている企業が注意すべきリスクにも言及している。笑下村塾の視点から、日本を俯瞰してみよう。
見出し
笑いで世直し。お笑い芸人のトークで社会課題を身近に。
ーーまず相川さんの自己紹介をお願いします。
相川:相川美菜子です。たかまつと2人で株式会社笑下村塾の共同代表をしています。たかまつとは慶應のSFCの同級生です。私は大学生の時に「政治美人」という政治をわかりやすく伝えるメディアを作っていたのですが、社会問題を楽しく伝えるという最終的なゴールが同じだったので意気投合して仲良くなりました。その後、就職をして人材系の企業で働いていた時に副業として一緒にやってくれないかと声をかけられて、最初はボランティアとして笑下村塾に加わりました。
ーー株式会社笑下村塾の事業内容を教えてください。
相川:笑下村塾は「笑いで世直し」というミッションを掲げて、お笑いで社会問題を解決する取り組みをしています。
具体的には、社会問題や政治のことをお笑い芸人さんが先生として企業や学校で楽しく教える出張授業「笑って学ぶSDGs」があります。一般的に企業研修や学校の特別授業というと、堅苦しい専門家が話をしに来て、つまらなかったり眠くなってしまうようなものも多いと思うのですが、みなさんが知っているような芸人さんから、そんなに知名度がない方まで、さまざまな方が政治のことや、SDGsのことを楽しく教えてくれます。お笑い芸人が楽しく面白く社会のことを教えてくれるので、社会問題のハードルを低くしながら学べることが特徴です。
老若男女を対象に、エンタメを通じてSDGsを伝える
ーーいつからSDGsの取り組みを始められたんですか?
相川:約3年前から始めました。まだSDGsの認知度がまだ低かった頃、ある企業からSDGsの研修の依頼をいただいたことがきっかけです。私もたかまつも途上国に行ったことがあり、海外のグローバルな視点で国際的な開発教育や社会課題を伝えることにすごく関心があったので、自分が見たことも含めて、世の中に発信したりとか事業としていろんな人に伝えることができたらいいなという思いがあり、「笑って学ぶSDGs」という出張授業を始めました。これまでの受講者は数万人に達します。
ーー笑下村塾のサイトにはSDGs17番の「パートナーシップで目標を達成しよう」が掲げられていると思うのですが、17番の一つだけに絞っていることは何かこだわりがあるのですか?
相川:SDGs自体を事業としてやっているので、1個に絞るのがおかしいかなと思ったんです。4番の質の高い教育とかも考えたのですが、やはり色々な場所で授業をして、色々な人との人脈があるので、パートナーシップに注力できるのは弊社の強みではないかと思い、もっと推進していきたいと思っています。
ーー「笑って学べるSDGs」の授業内容を詳しく教えてください。
相川:芸人さんが先生となってSDGsを楽しく伝える、1時間から2時間程度のオフライン、またはオンライン講座です。老若男女さまざまな方に楽しんでいただいています。SDGsの基本的な内容の学習や、SDGsの課題解決のためのアイデアワークショップを行なっています。例えばコンビニと学校みたいな全然違う分野で組み合わせた時にどういった課題が解決できるかなどです。SDGsを推進する上で重要な異なる業界の連携をテーマにしています。授業全体として芸人さんに笑い要素を入れながら飽きないように説明をしていただいています。
ーー芸人さんが入ることで一気に和やかな感じというか、笑いの絶えない楽しい時間になりそうですね。
相川:面白いからこそ飽きずに集中して聞いていただけたり、小学生でも楽しめるのはすごくいいなと思っています。
エンタメ要素は最初のハードルを下げるためにも必要ですね。いきなりSDGsのセミナーに行こうと思う人はなかなかいないと思うので。エンタメを通してSDGsを伝えていく重要性を感じています。
台本には芸人さんにお任せするライブ要素も入れていています。真面目に話すところはこちらから情報を提供して、ボケていいところは芸人さんのセンスにお任せすることにより、しっかり学べて面白い授業を実現しています。
ーーその他にもさまざまな取り組みをされていますよね。例えば、SDGsを知るためのババ抜きカードと言うのはどんなゲームなのでしょうか。
相川:ババ抜きのようにカードの番号が揃ったら捨てるゲームなのですが、捨てる時にそれぞれの番号の関連した条件を加えてゲームをしてもらうのが特徴です。
例えば「作る責任、使う責任」では日本での食品ロスの問題を取り上げています。日本では一日に一人あたりおにぎり一個分の食料をロスしていることと、次のターンが回ってくるまでおにぎりのポーズをし続けることがカードに書いてあり、カードを引いた人はその指令に従わなければなりません。SDGsの課題と関連付けながらカードのやり取りをして、カードゲームとしても楽しめるものになっています。
ーーババ抜きカードを開発する際にこだわったところや工夫されたところはありますか?
相川:社会課題とゲームの面白さをどうリンクさせるかを工夫しました。課題を知るだけでも、ゲームとして面白いだけもダメで、課題を学びつつゲームとしても面白いものを作る必要があったので、そこの塩梅が難しかったですね。たくさんの方にアイデアを出してもらいながら決めました。それから、小学生でもできるように全部の漢字にふりがなを振り、言葉遣いもできるだけ簡単にしています。初めての人同士でもゲームとして成立するように明快なルールで遊びやすいものにしました。
講座自体がサステナブル!たくさんの人に届けるために生まれた「養成講座」
ーーカードゲームを使った授業のファシリテーター養成講座もされているそうですね。
相川:講座の進行の仕方や、そもそものSDGsに関する知識を伝える内容になっています。講座は1回(2日間)のみで、講座を受けた人は自分でワークショップを開くことができます。
ーー自社のコンテンツを養成講座を通して譲渡するのは斬新なアイデアですね。これを始めようと思ったきっかけは何ですか?
相川:もともとお笑い芸人さんを先生として全国に派遣していたのですが、SDGsに関心がある芸人さんの数は限られてしまうという課題がありました。また、芸人さんでなくてもいいから教えてもらいたいという声もありました。
このような現状を踏まえ、この講座を開ける人がもっと増えれば受講者の人数も増やすことができ、影響力もどんどん大きくなっていくと思ったんです。この講座をたくさんの人に届けたいという単純な思いがきっかけです。
ーー養成講座を受ける前と受けた後では、生徒さんにどんな変化がありますか?
相川:講座を受けることで環境問題やSDGsへの関心が高まり、自分自身の生活を見直される方が多いです。例えばペットボトルから水筒を使うようになるとか。講師という教える立場になることで、社会に対しての責任感が高まるのかもしれないですね。
ーー最近ではSDGsに関するオンラインサロンを始められたということですが、こちらはどういったものなんでしょうか。
相川:これはSDGsに関してもっと自分の目で見たり耳で聞いたりする場を増やしていこうという取り組みです。
さまざまな場所でSDGsのロゴマークを見かけますが、SDGsは国連が決めた2030年までの目標で、存在だけ知るだけに留まっている気がしますね。より具体的な解決のためのアクションを起こす人を増やす必要があると思います。そのために、このオンラインサロンを通じて、これだけ発展している日本でもまだまだ困っている人達がいることや、当事者の生の声を聞く機会を作るのはもちろん、実際に現地に行ったり、ボランティアに参加したりする仲間が集まるコミュニティにしていければと考えております。
ーー個別の課題に対してさらに理解を深めるということですね。もうすでに動き出しているのですか?
相川:今年の1月からメンバーの募集を始めています。メンバーが集まってきたタイミングで緊急事態宣言が出てしまったので、まだ現場に行くことはできていないのですが、先日は、SDGsに関連する映画をみんなで見ました。今は実際にDVの被害に遭われているシングルマザーの方にお話を聞くオンラインのイベントを企画しました。コロナ禍でもオンラインを使って当事者の意見を聞く機会を作っていきたいです。
「知っている」から「行動する」に。社会問題を自分ごととして捉えられる人を増やしたい。
ーー出張授業を始める前のSDGsの普及度と比べて、今の現状で、SDGsの認知度はどれくらいだと思いますか?
相川:出張授業を始める前は認知度も本当に低い状態でした。ちょうど、外務省がSDGsを広めようとしていて、ジャパンSDGsアワードを始めた頃でしたね。
今の認知度は、東京では半分ぐらいの人は知っている気がします。意識高いビジネスマンの中だと7、8割ぐらいは知っているイメージです。丸の内とかだと結構みなさんSDGsのバッジをつけていますね。
ただ、SDGsウォッシュという言葉もあるように、ワードだけ知っていて本質的なことを知らない人が多いように感じます。SDGsのバッジをつけている人に「SDGsに取り組んでいるんですか?」と聞いてみたら、「なんかこれ会社で貰ったんだよね」と言って何も知らないのに付けている方もいらっしゃいました。
認知度が高まれば高まるほど、そういう人が増えてきてしまっているというのが現状としてあり、課題だと感じています。知っているだけではなくて実際に行動している人を増やさないと何の意味もないと思います。会社の場合では、SDGsに関してあまり知識がないまま見せかけで取り組んでしまうと、叩かれるリスクもありますし、中途半端なことをやって逆に環境に悪いことをしてしまうリスクもあります。本質を捉えて行動に移す人が増えて、会社も事業の中でSDGsを推進できるような状態を作っていきたいですね。
ーー今後の笑下村塾のSDGsへの取り組み、将来の展望をお聞かせいただけますか。
相川:オンラインサロンをもっともっと大きくしていきたいと思っています。私は1人で途上国や海外を旅行することが好きで、以前もアフリカに1人で行って、児童労働の問題などをカカオ農園で見たりしてきたのですが、オンラインサロンも世界の課題を知ることができる場にまで展開していきたいと思っています。
今は海外も行けない時代ですが、コロナが落ち着いたらスタディツアーをしてみたいですね。また、オンラインサロンの参加者から企画してくれる人が出て来て、どんどん勝手にイベント化されて、みんなが学べるような場ができたら理想ですね。
会社全体では、芸人さん100人で出張授業を日本全国で行うことが目標なので、SDGsに限らず、今日もどこかでいずれかの芸人さんが授業をしているような世界観を実現させたいです。そうして、楽しく社会課題を学んで育つ子供達や学生さんが増える社会を作っていきたいです。
そのためには、持続可能な会社の経営が必要になってくるので、学校だけでなくお金のある企業でも研修をして、会社としての利益を上げながら教育的なことももっともっとやっていきたいなと思っています。
ーー最後に、SDGsの取り組みを通してどんな社会を実現させたいですか。
相川:社会問題を自分事として考えられる人を増やしたいです。どこかの誰かが困っているんだろうなという他人事としてではなく、自分が生きている社会の一つのこととして、みんなで解決をしていこうという想いをみんなに持って欲しいです。そうすれば、世の中のいろんな問題を解決していけると思っています。
そして、それは小さい頃からの教育が大切になると思います。大人になってから言われても、自分の生活に精一杯になって、どうしても二の次になってしまうからです。子供の時からみんなが考える機会を作り続けていきたいですね。SDGsを学ぶ子供たちを増やすことによって、最終的にはSDGsネイティブみたいな、SDGsが当たり前な世代が生まれて、SDGsを基準にしたライフスタイルを自然と選択する人が増えればいいなと思います。例えば就職先を選ぶ際に、給料や知名度ではなく、SDGsへの貢献度を選択軸にして就職先を選ぶような。そういう人がきっと未来をより良い方向に変えていく人材になると思います。
まとめ
SDGsというワードは多くの人にとって聞き慣れたワードになってきた。しかし、それを構成する一つひとつの内容や日本の達成度を説明できる人はまだ少ないだろう。これからSDGsを知っていることが当たり前になり、多くの人が生活のさまざまな場面でSDGsを意識した行動の選択ができるようになれば、世界は少しずつサステナブルになっていくはずだ。
笑下村塾のファシリテーター養成講座を受ければ、自分が誰かの行動を変えるきっかけにもなれる。笑下村塾の「笑って学べるSDGs」は、誰もがSDGs17番に掲げられているパートナーシップを実現する担い手になれることを気づかせてくれる。
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