グリーン・リカバリーが創出する、真にサステナブルな社会

#ESG#SDGs目標12#SDGs目標13#再生可能エネルギー 2021.05.24

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【更新日:2021年6月18日 by 鈴木 智絵

2021年3月18日、19日にMASHING UP SUMMIT 2021がオンラインで開催された。学生や専門家などが登壇し、さまざまな社会問題を掘り下げるトークセッションを行った。

最後のトークセッションのテーマは「グリーンリカバリー」だ。

未曾有のコロナ禍が課題になるだけでなく、さまざまな環境問題は深刻さを増している。コロナからの復興と、環境問題、気候変動への具体的なアクションが求められている現代は抜本的な変革が喫緊の課題であるといっても過言ではない。

今回の記事では、日本の地球温暖化をはじめとする環境問題への取り組みを牽引する小西雅子氏と根本かおる氏のトークセッションをまとめている。グリーン・リカバリーが創出する真にサステナブルな社会を考えていくきっかけになればと思う。

登壇者

小西雅子氏
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)

根本かおる氏
国連広報センター所長

そもそもグリーンリカバリーとは何か?

『2021年を復興と気候行動の年に〜SDGsを羅針盤にコロナ危機からの「より良い復興」を〜』と題した根本氏によるプレゼンテーションでトークセッション開始。

誰1人取り残さないSDGsの重要性

まず前提として根本氏が述べたのは、「SDGsを羅針盤にしてよりグリーンで包摂的、格差のない持続可能な社会を作っていこうという国連からの呼びかけが2015年(MDGsを入れれば2007年)から始まったことを忘れてはならない」ということだ。

「SDGsは持続可能な開発を促すため2030アジェンダの一部として発行されたものだが、大きな特徴として先進国だけではなく、開発途上国も含めた全ての国が責任を負ってアクションを起こしていくことの大切さが明記されていることを前提とし、コロナ禍からの復興を目指すことが大切だ」と根本氏は語った。

新型コロナウイルス感染症の蔓延が及ぼすSDGs達成への影響

根本氏は「環境、社会、経済の多角的な視点から誰1人取り残さない持続可能な社会を作るためアクセルを踏み込んでいこうと各国が意気込んでいた矢先、私たちが直面したのが新型コロナウイルス感染症の蔓延」と述べた。

また、「医療・保健の危機として始まった新型コロナウイルス感染症拡大であるが、その影響は福祉や健康だけにとどまらない。人間開発指数と呼ばれる、社会の発展を測る指数では、コロナの影響で2020年は、測定が始まって初めて大きくマイナスに落ち込むと見られている。また、教育の観点からは、ピーク時には世界中で9割の学生が学校に行けなかったというデータがあり、教育環境の整備に暗い影を落としている。さらに、コロナ禍による雇用の減少により、非正規雇用者は大きなダメージを受けている。非正規雇用者は女性に多く、女性の方が大きなショックを受けているというデータもあり、女性の権利や待遇への課題が露呈している」として医療・保健の危機として始まった新型コロナウイルス感染症の蔓延だが、その影響は多岐に渡り、SDGs達成に大きな影響を及ぼしていると根本氏は言う。

さらに、根本氏は気候変動は新型コロナウイルスが発生した原因の1つと言われていることにも触れた。「新型コロナウイルスは人獣共通のウイルスと言われており、これからの未知のウイルスとの戦いを避けるためにも、気候変動やその他の環境問題に取り組むことは喫緊の課題」とコロナ禍からの復興ビジョンを掲げる上で、環境問題への取り組みの重要さを語った。

できることは身近にある!一人ひとりがアクションを起こす大切さ

そこで根本氏が推奨するのが、「一人ひとりができることから選択を変えていくことでこのコロナ禍、そして気候変動、環境問題を克服していくこと」だという。

例えば、食の選択。根本氏によると「食産業は、生産から消費、廃棄まで全体の温室効果ガス排出の3割以上を占めていると言われている。食事スタイルを少しずつ変えたり、認証マークがついたものを買うなど生産者だけではなく、消費者側からもアプローチしていることが求められている」のだそう。

また、ファッションの選択に関しても大きな変革が起きている。根本氏は、「今までの大量生産大量消費ではビジネスモデルは立ち行かなくなっている。シーズンごとに新しいものを買い、流行が終われば捨てるのではなく、大切に着てアップサイクルするのが主流になってきている」とさまざまな業界でより持続可能な社会を構築するための変革が起きていると述べた。

さらに、情報の選択も私たちがよく考えなければならないことの1つだと根本氏は言う。デマや誇張された情報は正確な情報よりも早く蔓延しやすい。根本氏は「ドキッとするようなものは眉唾だと思った方がいい」という。つまり、情報を得るときも、誰がどんな意図を持ってその情報を発信しているのか考えることが重要だ。

また、「こうした活動は、世界全体で達成していかなければ、持続可能とは言えない」とも根本氏は語る。そこで国連では”Only Together”「一緒ならできる」という標語を掲げているのだそう。根本氏は「世界中の人々がともにこのコロナ禍を乗り超えていく、システムから変えていかなければならない、そんな思いがグリーンリカバリーという言葉には込められている」と熱く語った。

気候変動

次のトークテーマは「気候変動」。ここでは、小西氏がコロナ禍と気候変動の関係性とこれからについて詳しく述べた。

まず、小西氏は近年の世界各地で人々の生活を脅かし始めている気候変動の影響について詳しく説明。
日本でも毎年自然災害が発生し、甚大な被害をもたらしている。近年の大雨、暴風や猛暑などは温室効果ガスの排出量が増えていることが大きな1つの原因となっていると言われている。その被害は人間だけに止まらない。オーストラリアやブラジルでは温暖化により猛暑や干ばつが頻発。乾燥した熱風が森林火災を引き起こし、森林に住んでいる動物の命を危険に晒したり、住処を奪うなど、生物多様性に対する影響も著しい」と小西氏は気候変動が地球規模の問題であると強調した。

では、コロナ禍と気候変動の関係性はどうか?

小西氏は「気候変動にだけ焦点を当ててみると、コロナ禍は悪いことばかりではなかった」と述べた。

小西氏によると、NASAが撮影した衛生画像を見ると、ロックダウンにより工場や公共交通機関から排出される大気汚染物質が少なくなったことで、大気汚染の改善が観察されたのだそうだ。

しかし、「コロナ前の生活に戻ってしまえば、温室効果ガスの排出量はすぐに戻ってしまう」と述べる。では、コロナ禍によって改善された大気の状態をどのようにして維持していけばいいのだろうか?ここで取り上げられるのがグリーンリカバリーだと小西氏は語った。

小西氏は、「グリーンリカバリー実施のために7つのキーワードがある」と言う。

● SDGs
● パリ協定(SDGs13)
● 1.5度:2050 GHG(温室効果ガス)実質ゼロ
● ESG投資
● 再生可能エネルギー
● 電化
● DX

パリ協定

国際的な気温上昇に対する代表的な枠組みとして有名なのがパリ協定だ。

小西氏は、「温暖化の主な原因は化石燃料の使用だ。このまま化石燃料を使用し続けると、地球の平均温度は4度程度も上昇してしまうと言われている。ライフスタイル、社会の仕組みを変えていくことで、地球の温度の上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることをパリ協定は目指している」とパリ協定について説明した。

また小西氏によると、パリ協定に各国が合意するまでには長い道のりがあったのだそう。「それまで国際問題の解決といえば、各国政府の仕事とされ、各国政府は国益を優先させた国際条約の締結を求めるため、数々の外交戦略を交えてきた」と小西氏は各国間での協定を結ぶことの難しさを語る。では、そんな各国政府の政治戦略のなかで、科学に忠実なパリ協定が成立できたのはなぜか?

小西氏は解決の担い手が政府だけではなく、世界の都市・自治体や企業イニシアティブ、市民団体などの多様な主体へと変化してきたことを1つの要因として挙げた。

小西氏は「東京、ロンドン、パリ、ニューヨークなどの主要都市が、国を上回る取り組みを実践することを決めたことにより、パリ協定の合意は促進された。また、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリ氏により、世界中の若者が鼓舞され、気候変動に対する取り組みは大きな社会的なうねりとなっている」と新たな社会のムーブメントが政治を動かす力があると強調した。

日本に求められること

小西氏は日本が果たす役割として、「グリーンリカバリーな経済刺激策、つまり持続可能な社会へのシステムチェンジを促すような取り組み、そして、気候変動の悪影響にも備える社会作りをしていくこと」を挙げた。

「そのためにも、SDGsやパリ協定をガイドラインとして施策をねり、実践していくことが大切だ」と小西氏は述べる。特に小西氏が強調したのが、「今後10年の私たちの行動変容」だ。その理由として「2050年温室効果ガス排出ゼロを達成するまでに30年あるが、これからの5年10年が社会基盤を変えていく最初のステップとなるため」と小西氏は述べた。

しかし、パリ協定に提出している日本の目標は2013年から温室効果ガス排出量26%減少。(※2021年4月22日午後、菅義偉首相は政府の地球温暖化対策推進本部の会合で、2030年までの温室効果ガスの削減目標を2013年度比で46%減にすると表明)

この目標は国際的に著しく不十分だとされており、もし全ての国の削減目標が日本レベルだと3~4度の気温上昇をしてしまうのだ。

小西氏は「日本は、今年開催されるCOP26においてエネルギー基本計画を見直すことになっている。2050年温室効果ガスゼロを達成するには、2030年に少なくとも約45%を削減しなければならないため、今パリ協定に提出している基本計画に書かれている26%から割合をどのようにしてあげることができるかが政府の議論の的になっている」と語る。

「日本において、温室効果ガスの排出は化石燃料を由来とするエネルギーは9割であり、エネルギーを脱炭素化することが重要だ。中でも再生可能エネルギーへの注目が集まっている。私たち一人ひとりが環境や安全のことを考え、再生可能エネルギーを選んでいく姿勢が強く求められている」と小西氏は一人ひとりの行動変容の大切さを強調した。

再生可能エネルギーへの信頼性

根本氏も最近、再生可能エネルギー由来の電力に切り替えたのだそう。しかし、根本氏は「再生可能エネルギーは社会変革のための重要なステップであると言えるが、2021年1月に電気料金が高騰してしまったこともあった。さまざまな自然災害や社会の動きによって左右されてしまう再生可能エネルギーに対してどのように私たちは考えていけばいいのか?」と小西氏に質問。

それに対して、小西氏は「今回の電力高騰は、コロナによるガスの供給の遅れ、つまり人為的な要因によって起きたことであり、マーケットから直接買い付けている電力事業者の電力は高騰したが、すべての再生可能電力事業において値上がりが発生したわけではないのだ」という。

また、再生可能エネルギーには太陽光発電、地熱発電、風力発電など、さまざまな発電方法が存在しており、1つの電力源からの発電量が少なくても他の電力源が補填できるの再生可能エネルギーの良さと言えるのだそう。そのために、「日本も太陽光発電が広く知られているが、他の再生可能エネルギーも盛り上げ、さまざまな電源からの供給ができるような体制を整えていくことが必要不可欠となっている」と小西氏は述べた。

野菜中心の食事への切り替え

根本氏は電気の切り替えのように身近なところから行動変容をしていく必要があると強調。特に根本氏が注目しているのが食事だという。
「食事も私たちの生活にとってはなくてはならないものである。この食事も、変えていくことで温室効果ガス排出を抑えるためのアクションになる」と根本氏は語る。

根本氏によると、肉中心の生活を野菜中心の生活に変えるだけで、1食あたり1000Lの水(人間1人の1年分の飲水量)を削減することができるのだそう。また、非常に大きな温室効果ガス削減への効果があるのだそうだ。

また、この問題は、環境問題だけに止まらず、飢餓などの問題にも関わっている。人口が増えれば増えるほど、飢餓に苦しむ人たちの割合は増加してしまう。小西氏は「肉中心の生活スタイルから野菜中心の生活スタイルへの移行は飢餓問題の解決に対しても大きな一歩と言えるのではないか」と述べた。

国連がSDGsや気候変動に力を入れる理由

コロナ禍は世界に大きな衝撃を与えたが、各国が結託してワクチンの開発も進み、数年で手足の目処が立つだろうと言われている。しかし、気候危機はパンデミックよりも長期的、なおかつ深刻な影響を世界に与えかねない。

根本氏は、「その影響を抑えるため、さらに悪化することを防ぐためにアクションができる最後のタイミングが今なのではないか」と言う。

根本氏は「カーボンバジェット(温室効果ガスの過去の排出量と将来の排出量の合計の累積排出量の上限値)は、あと7〜8年ほどが限界。それを考えると、私たちの生活は危機に瀕しているといっても過言ではなく、今アクションを起こしていくことが求められている」と今行動を起こすことの意義を呼びかけた。

「SDGsは経済、社会、環境をつなげて考える枠組みだ。その中でもベースとなっているのが環境なのだ」と根本氏は述べた。地球環境なしでは私たちの経済、社会は立ち行かなくなってしまう。だからこそ、国連はSDGs、そして特に気候変動に対する一人ひとりのアクションを重要視しているのだ。

国連が日本に期待していることとは?

日本は菅首相の所信表明演説で2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指すと宣言した。それを元に、都市に着目したゼロカーボンシティという施策が上がってくるなど、日本では、国としての大きな目標に際した足元からの変革、取り組みが注目されている。

根本氏によると、この日本の「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」に対しては、国連からも大きな喜びと期待が寄せられているという。

質疑応答

ーーWWFや国連が提唱するアクションを多種多様な業種業界で取り入れるためには、何から行動をすれば良いでしょうか?

根本氏によると、「サーキュラーエコノミーの実践などがどのように気候危機に対するアクションと関わっているのか明確に示していくことが必要だ」という。

「金融、投資家、ファッション業界など、業種によってさまざまな行動がある。さまざまな業種に存在する国際的なイニシアティブは、それぞれが実践している取り組みがどのように気候危機に関わっているのか明確にする姿勢が求められている。同時に、一人ひとりがそれらイニシアティブの行動に参画し、アクションと気候変動やその他社会問題との繋がりを理解することがアクションの第一歩として重要だ」と根本氏は述べた。

国際的な枠組みに参加している日本の企業は世界的に見ても多い。根本氏は「それを一般の人たちにもさらに知ってもらうことで、消費者の行動を少しずつ、しかし着実に変えていけるのではないか」と語った。

ーーパリ協定においても、各国の政治的な駆け引きによって足並みが揃わないなどの問題が露呈していますが、世界全体で力を合わせて気候変動に取り組むためにはどのようなことが必要でしょうか?

小西氏によると、「パリ協定は実は20年以上の深刻な国際対立を経て成立しているものであり、それぞれの国がどれほど本気で気候変動に取り組んでいるかが重要な指針となっている」のだそう。「もちろんその時の政治的な動きによってパリ協定に対するアプローチの方法は変わってくるかもしれないが、2050年までに温室効果ガス排出ゼロというゴールは世界の枠組みとして揺るがない」と小西氏は述べた。

また、根本氏は、「各国でリーダーシップを担う人々には、気候変動で危機に瀕している地域に足を運んで欲しい」と訴えた。

「地球温暖化のせいで、何年後かに沈むかわからない島で生活している人々や、プラスチック汚染に苦しむ海辺の人々…。そういった人々の生活を自分の目で確かめることで、各国の責任やアクションの重要性を認識することができるのではないか」と語った。

ーー再生可能エネルギーだけで日本全体を賄うことができるのか?

根本氏によると、「WWFやその他の研究機関の研究によると、今の技術で、日本全体の電力を賄うことは可能」なのだそう。また、コスト面においても、GDPの1%〜2%の投資で実現が可能だそうだ。
つまり、「私たちの意思次第で実現可能」と小西氏は見解を示した。

また、地産地消のエネルギーを促進することで、災害が起きた際にも復興が早い。人々の暮らしの安全を守ると言う観点でも再生可能エネルギーを日本国内で増やしていくことはメリットがあるといえそうだ。

最後に

気候変動やSDGsと聞くと、少し難しく感じてしまう人も多いと思うが、「誰しもが何かできる。自分で自分の未来を選ぶことは楽しいことなんだよ」と言うメッセージが心に響いたセッションだった。

一人ひとりがアクションを起こして、より良い未来を選ぶための取り組みを続けていくことの大切さ、そして、私たちならできると信じ、実行し続けていくと言う継続の大切さを胸に、「今」からアクションを起こしていきたい。

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