【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ】
ユニセフによると、現在日本は世界第3位の経済大国でありながら7人に1人が貧困状態にあり、1人親世帯では半数以上が貧困状態にあります。
また、各国における男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」の日本のスコアは、2020年の順位が149か国中121位と非常に低い順位です。
このように人や国の不平等はもはや他人事ではなくなっています。
そこで、日本も含め世界のあらゆる格差に私たちはどのように立ち向かえば良いのでしょうか。
SDGsが示す10番目の目標「人や国の不平等をなくそう」について、事例とともにわかりやすく紹介していきます。
見出し
SDGsとは
SDGsは“Sustainable Development Goals”の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。
SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。
SDGs CONNECTでは、SDGsの各目標ごとに解説記事を公開しています。
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目標10「人や国の不平等をなくそう」
「人や国の不平等をなくそう」とは?
「人や国の不平等をなくそう」とは、各国内および各国間の不平等を是正するべく掲げられている目標です。
国際連合によると、2017年には世界人口のもっとも豊かな1%の人が持つ資産が世界全体の資産の約33%に相当し、もっとも貧しい25%の人が持つ資産の割合はわずか10%でした。
2030年までに性別や年齢をはじめ障がい・人種・民族形態の不平等を解決するには、世界各国の協力が不可欠です。
(参考:国際連合の持続可能な開発に関するグローバル・レポート2019未来は今:)
7つのターゲットと3つの方法
SDGsの各目標には「ターゲット」という、その目標を達成するための達成目標と実現方法が共に掲げられています。目標10「人や国の不平等をなくそう」には、以下のように7つのターゲットと3つの方法がターゲットとして掲げられています。
「1-1」のように数字で示されるものは、それぞれの項目の達成目標を示しています。
「1-a」のようにアルファベットで示されるものは、実現のための方法を示しています。
10.1 | 2030年までに、各国の所得下位40%の所得成⻑率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる。 |
10.2 | 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。 |
10.3 | 差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、ならびに適切な関連法規、政策、行動の促進などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する。 |
10.4 | 税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する。 |
10.5 | 世界金融市場と金融機関に対する規制とモニタリングを改善し、こうした規制の実施を強化する。 |
10.6 | 地球規模の国際経済・金融制度の意思決定における開発途上国の参加や発言力を拡大させることにより、より効果的で信用力があり、説明責任のある正当な制度を実現する。 |
10.7 | 計画に基づき良く管理された移民政策の実施などを通じて、秩序のとれた、安全で規則的かつ責任ある移住や流動性を促進する。 |
10.a | 世界貿易機関(WTO)協定に従い、開発途上国、特に後発開発途上国に対する特別かつ異なる待遇の原則を実施する。 |
10.b | 各国の国家計画やプログラムに従って、後発開発途上国、アフリカ諸国、小島嶼開発途上国及び内陸開発途上国を始めとする、ニーズが最も大きい国々への、政府開発援助(ODA)及び海外直接投資を含む資金の流入を促進する。 |
10.c | 2030年までに、移住労働者による送金コストを3%未満に引き下げ、コストが5%を越える送金経路を撤廃する。 |
(引用:農林水産省「SDGsの目標とターゲット」)
負の連鎖を生む不平等
所得、地域、ジェンダー、年齢、民族、障がい、性的指向、階級、宗教を原因とし、アクセスや機会、結果を決定付けてしまう不平等は、国家間でも各国の内部でも根強く残っています。
不平等が起こることで、社会格差の拡大や、経済的成長の妨げなどの社会に対する悪影響が連鎖的に起こるので「誰一人取り残さない社会」を作るために不平等はなくしていかなければなりません。
世界の人や国の不平等の現状
所得待遇の不平等
不平等の例として大きく取り上げられるのが、所得待遇の不平等です。
現在、世界のもっとも豊かな層の10%が全世界における所得の40%を占めているといわれています。
その大きな原因となっているのが、資産を持つ豊かな層に有利に働くグローバル経済や金融システムです。
また十分な資産を持つ富裕層がいる一方で、1日に2米ドル以下で生活する極度の貧困状態で生活している人もいるという現状にあるため、経済格差は改善すべき深刻な問題です。
問題の解決には、金融市場・機関の規制とモニタリングを改善し、格差是正の必要が大きい地域に対する開発援助と外国直接投資を促さなければなりません。つまり、所得に関する不平等をなくすためには、平等な雇用機会と、公正な収入を誰しもが享受できる社会システムを作り出すことが必要です。
国家間の所得待遇の不平等の問題として深刻な例として、移民への所得待遇の不平等があげられます。
開発途上国の貧困層は、国内で働くだけでは十分な収入を得ることができず、海外で出稼ぎするケースが多いとされています。
その際、母国に残した家族に出稼ぎ国から送金する必要がありますが、送金手数料が高く、現地の人と同等の給与を得ても、実際に生活の足しにできるのは現地の人に比べて低くなってしまいます。
特にサハラ以南のアフリカ諸国では平均して送金に10%の手数料が必要となり、出稼ぎして稼いだ収入もその1割は送金手数料で消えてしまうのです。
同じ国で働いていても、所得の待遇が不平等であることから、現地の人と移民の間の所得格差の広がりにつながっています。これは貧困の是正への足かせになるため、送金手数料を3%まで低下させることが目標となっています。
(参考:国連開発計画公式ホームページ目標10: 人や国の不平等をなくそう)
教育機会の不平等
ユニセフ「世界子供白書2017」によると、2017年時点で世界では6~14歳の1億2,400万人の子どもたちが学校に通えず、1億2,400万人のうち初等教育を受けられていない子どもは約6,100万人にも及びます。
特に、教育を受けられていない子どもはサハラ以南のアフリカと南アジアの地域に集中しているため、先進国と途上国間の教育機械の不平等による格差の拡大が非常に大きな問題になっています。
また、日本ではほぼ100%の子どもが義務教育を受けることができ、奨学金制度や国公立の教育機関が授業料を安くすることで教育機会平等を保証しています。
しかし、経済的な理由から、塾に通えなかったり、地域的な理由から利用できる教材が限られていたりと、教育機会の不平等は根強く残っています。
2018年、ベネッセ教育総合研究所と朝日新聞社が合同で行った「学校調査に対する保護者の意識調査」によると、62.3%の人が教育の機会不平等は「当然だ」もしくは「やむをえない」と容認しているという結果が出ました。
不平等や格差を容認する社会を脱却し、各家庭の経済格差や地域の違いによらず、学力が身に付く公教育の改善と充実が求められています。
教育機会の充実は雇用機会を拡大することにもつながるため、国、地域、家庭の状況による教育機会の不平等は早急に解決されるべき問題です。解決のためには、社会的システムと私たちの意識の抜本的な変革が必要となります。
(参考:教育の機会不平等を容認する国ニッポン)
ジェンダー差別
男女の社会参画機会の格差が世界中で問題になっています。その中でも大きく問題となっているのが、男女雇用機会の不平等です。
女性は男性よりも雇用の機会を与えられないことが多く、世界中の労働人口のうち女性の数は3分の1に留まっています。例えば、国際労働機関(ILO)の調査によると世界における女性国会議員の割合は23.7%、女性管理職比率は27%であり、あらゆる数字から女性の参画が進んでいないことがわかります。
(参考:賃金の平等)
女性の賃金は男性に比べて低いことも明らかになっています。
国際労働機関(ILO)の調査によると、世界的にみても女性の収入は男性の8割程度、男女の賃金格差は22.9%と、男女間の賃金の完全平等を達成した国はいまだありません。
(参照:賃金の平等)
一方、政治の世界では女性の存在感が着実に高まっています。
世界では120カ国以上の国が議会の議席や選挙での候補者の一定数を女性に割り当てるクオータ制を導入しています。また、ニュージーランドやドイツでは女性首相や大統領が誕生するなど女性が管理職につくことが社会に浸透してきたことを表していると言えます。
人種差別
人種差別に関しては、植民地主義時代から根強い社会問題となってきました。
現代においても人種差別は大きな問題となっています。特にアフリカ系の人々が歴史的に見ても差別の対象となることが多く、現代においても深刻な問題となっています。
例えば、アメリカでは警察官から受けた暴行での怪我や死亡率・逮捕率などがアフリカ系の市民に対して高い割合であることを受けて、「組織的な人種差別」が問題となっています。最近では、2020年5月にジョージ・フロイドさんが警察官から暴行を受けて死亡した事件を受けて、”Black Lives Matter(BLM)”として大規模な社会ムーブメントとなりました。人種の違いによって社会の分断が起こっている現状に対して、社会的不安が高まっています。
(参考:国連人権理事会、人種差別について報告求める決議を採択)
国連は、人種による隔離及び差別のあらゆる慣行を非難してきました。
具体的には、人種的相違に基づく優位性のいかなる理論も科学的に誤りのため人種差別は道徳的に非難されるべきとし、あらゆる形態及び表現による人種差別を全世界から速やかに撤廃し、人間の尊厳に対する理解および尊重を確保する必要性を厳粛に確認していくことを宣言しました。
つまり、人種差別は社会的に不正かつ危険であり、理論上または実際上いかなる場所においても人種差別を正当化することはできないとしています。
人種差別はいかなる状況下でも許されるべきではありません。社会制度の改革と、人種差別をなくすための一人ひとりの意識改革と行動が重要です。
(参考:International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination)
障がい者差別
国連広報センターによると、およそ10億人の人々が何らかの形の肢体的・精神的もしくは感覚的な障害に苦しんでいて、その割合は世界の15%に及びます。
また、同じく国連広報センターによると、障害者のおよそ80%の人々は開発途上国に住んでいます。
彼らがしばしば雇用や教育などの社会の主流から取り残されることが世界的に問題になっていますが、障害についての認識や概念を変えるためには、社会のあらゆるレベルで価値観を変えて理解を深めなければならないでしょう。
日本の人や国の不平等の現状
日本国内の所得格差は拡大している
「日本は諸外国と比べてあまり所得格差がないのでは?」と思う方が多いかもしれませんが、実は日本の所得格差のレベルは先進国の中でワースト8と報告されています。
内閣府のジニ係数(ワープレの説明機能で説明加える)によると、2001年は約0.42だったジニ係数が徐々に上昇し2010年には0.4703になっていることから、日本国内の所得格差が拡大していることがわかります。
CHECK!: ジニ係数とは?
格差を測る指標の一つ。具体的には、所得が完全に平等に分配されている場合と比べてどれだけ偏っているかを0から1までの数値で表したもの。完全い平等な状態であれば字に係数は0となり、1に近くなるほど不平等度が大きくなる。
また、高齢者世帯の所得格差も拡大しており、65歳以上の高齢者のいる世帯の貧困率は27.0%に達しています。
つまり、健康寿命が今までよりも延びた現代において、年齢による雇用機会の不平等もこれから取り組むべき課題の一つと言えます。
(参考:ユニセフ報告書「子どもたちのための公平性」レポートカード(Report Card)シリーズ|日本ユニセフ協会)
(参考:厚生労働省の国民生活基本調査:国民生活基礎調査|厚生労働省)
ジェンダー格差
日本は先進国の中でもジェンダー格差が大きいことで知られています。
各国における男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」の日本のスコアは、2020年の順位が149か国中121位と非常に低い順位です。
この指数は、経済・教育・健康・政治の4つの分野のデータから作成されるため、男女間の所得格差や女性の大学進学率の低さ、国会議員や閣僚などの女性比率の低さが日本は世界的に見て遅れていることを意味します。
また、政治への参画に関しても日本は世界でも女性の国会議員の割合が低く、女性の政治参画が非常に遅れています。
「列国議会同盟」(IPU)の調査によると、各国の国会下院(日本は衆院)または一院制の国で女性議員の割合を見ると日本は9.9%で、世界191カ国中165位(2020年1月現在)にとどまっており、G7など先進国の中では最も低い順位になっています。
(参考:内閣府男女共同参画局総務課「共同参画」2020年3・4月号)
ヘイトスピーチ
ヘイトスピーチは、特定の国の出身者やその子孫であることを理由に、日本社会から追放しようと危害を加えるなど一方的な言動のことを指します。
日本ではマスメディアの報道の影響もあり近年ヘイトスピーチが問題になっていますが、平成29年10月に実施された「人権擁護に関する世論調査」によるとヘイトスピーチを知らない人は半数近い42.6%となっており、あまり問題が認知されていません。
そのため、ヘイトスピーチの解決のためにはより多くの日本人に現状を知ってもらう必要があります。
障がい者差別
2017年の内閣府「障害者に関する世論調査」によると、日常生活において差別や偏見を受けたと感じる場面がある人は全体の59%となりました。
また、日本ではすべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互的に人格と個性を尊重し合いながら矯正する社会の実現に向け、障害者差別解消法が制定されました。
(参考:障害者差別解消法リーフレット – 内閣府)
人や国の不平等に対する取り組み【世界】
事例1:JICA
国際協力機構(JICA)は貧困層の所得向上に取り組んでいます。
具体的には、貧困層の多い地域で農業生産の安定化や市場志向型農業を推進し、農産物の加工・流通を含めたバリューチェーンを構築するなど食料の安定供給と農村地域の雇用創出・収入の向上を目指しています。
(参考:ゴール 10 の達成に向けた JICA の取り組み方針 ゴール 10 各国内及び各国間の不平等を是正する)
事例2:UNDP(国連開発計画)
UNDP(国連開発計画)は、貧困の根絶に取り組んでいます。
具体的には人間らしい仕事と暮らしの創出、水道やエネルギー・医療活動をするための資材などのサービスを提供しています。
事例3:Freshfields Bruckhaus Deringer(FBD)
イギリスにある国際法律事務所のFreshfields Bruckhaus Deringer(FBD)は、司法制度の利用促進と不平等の是正の一環として、金銭面で法律サービスを依頼できないクライアントに無償サービスを提供しています。
主なクライアントは、亡命者やSave the Childrenをはじめとする大規模な慈善団体です。
(参考:SDGs Good Practices)
人や国の不平等に対する取り組み【日本】
事例1.ヘイトスピーチ解消法の成立
日本ではマスメディアの報道の影響もあり、近年ヘイトスピーチが問題になっています。
ヘイトスピーチは特定の国の出身者やその子孫であることを理由に、日本社会から追放しようと危害を加えるなど一方的な言動のことです。
この状況を改善するために、国会でヘイトスピーチ解消法を成立させ、不当な差別的言動は許さないと宣言しています。
事例2.一般社団法人こども宅食応援団
一般社団法人こども宅食応援団は、「こども宅食」という取り組みをしています。
この取り組みでは、生活保護やフードバンクといった必要な支援を受けられずにいる子育て家庭に、食料品や学用品などの物資を届けています。
また、食品を届けるだけでなく、LINEで相談を受け付けたり、必要に応じてそのほかの支援につなげたりというサポートもしています。
事例3.JALグループ
JALグループは、「D&I推進」という取り組みをしています。
例えば、LGBTQへの理解を促進するために異性と法律上の結婚をしている社員(およびその配偶者と家族)に適用する制度を、会社の定める同性パートナー登録を行った社員(およびそのパートナーと家族)にも同様に適用する制度を導入しています。
また、女性リーダーの育成と輩出にも力を入れています。
JALグループは「2023年度末までに管理職女性比率20%、2030年度末までに30%以上を達成する」という数値目標を掲げていますが、2020年3月末現在の女性管理職比率は18.4%と着実に増加しています。
まとめ
所得格差、ジェンダー差別、人種差別は人類が直面する大きな課題ですが、その解決には地道な努力が欠かせません。
「まずは知ることから」ということで、この記事で少しでもSDGsや人や国の不平等に興味を持っていただけたなら幸いです。
SDGsコネクトではこれからもSDGsに関する情報を発信していくので、その他の記事もぜひご覧ください。
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