《SDGs基礎》目標3「すべての人に健康と福祉を」を徹底解説

#SDGs目標3#アクセス#ヘルスケア#ワクチン#予防#保険#健康#医療#感染症#福祉#開発途上国 2021.02.12

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【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ

SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」では、あらゆる年齢のすべての人々の健康と福祉を確保することを目指しています。健康の確保と福祉の増進は、豊かな社会を築くための重要な要素です。しかし現在、世界では基本的な医療へのアクセスすらままならない人々が多く存在しています。

今回はSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」について、世界の現状や解決に向けた取り組みを、事例と合わせてわかりやすく解説していきます。

SDGsとは

SDGsは“Sustainable Development Goals”の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。

SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。

SDGs CONNECTでは、SDGsの各目標ごとに解説記事を公開しています。

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目標3「すべての人に健康と福祉を」

作成:SDGs CONNECT編集部

「すべての人に健康と福祉を」とは

SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」は、母子保健を増進し、主要な感染症の流行に終止符を打つこと、また非感染性疾患と環境要因による疾患を減らすことを含めて、あらゆる年齢のすべての人々の健康と福祉の確保を目指す目標です。

UNDP(国連開発計画)によれば、1990年以降、予防可能な病気による子供の死者数は50%以上減少しているにもかかわらず、5歳にも満たずに命を落とす子供は依然として600万人を超えています。毎日、予防可能なはしかや結核などによって1万6000人の子供たちが亡くなっているのです。

また、医師数の不足など、世界では多くの人々が医療や福祉に平等にアクセスできていないのが現状です。日本でも新型コロナウイルスの流行で、医療体制の充実が非常に大切であることが明らかとなりました。

これらの問題を解決するためには世界各国の協力が不可欠であり、2030年までに健康と福祉の充実によって救える命を守るために、包括的なアプローチが求められています。

(出典:国連開発計画公式サイト

「すべての人に健康と福祉を」のターゲット

SDGsの各目標には、より具体的な目標と実現方法がターゲットとして掲げられています。目標3「すべての人に健康と福祉を」には、以下の9つの目標と4つの方法がターゲットとして掲げられています。

CHECK!!

「1-1」のように数字で示されるものは、それぞれの項目の達成目標を示しています。
「1-a」のようにアルファベットで示されるものは、実現のための方法を示しています。

3-1 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する。
3-2 すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、2030年までに、新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。
3-3 2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。
3-4 2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する。
3-5 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。
3-6 2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。
3-7 2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が利用できるようにする。
3-8 すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。
3-9 2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。
3-a すべての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する。
3-b 主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特にすべての人々への医薬品のアクセス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである。
3-c 開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。
3-d すべての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。

すべての年齢のあらゆる人々に、平等に健康と福祉を提供するため、世界各国の一人ひとりが力を合わせ、これらの目標実現に向けて取り組んでいく姿勢が求められます。

「健康と福祉を充実」とは

健康の充実

1974年に採択されたWHO憲章では、前文において「健康」を次のように定義しています。

「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」

この定義において特徴的なのは、肉体的な健康のみならず、精神的な健康も重視している点です。開発途上国ではエイズやマラリアなど、肉体的な健康を阻害する病気が問題となっていますが、医療が整っている先進国ではうつ病や依存症などの精神的な病気が問題となっています。

このようにあらゆる年齢のすべての人々に対して、様々な面から健康を促進して行くことが必要となっています。

福祉の充実

Oxford Languagesによれば、福祉とは「しあわせ。幸福。(公的扶助による)生活の安定や充足。また、人々の幸福で安定した生活を公的に達成しようとすること。」とあります。つまり福祉の充実とは、公的なサービスによって人々を幸せを実現することです。

具体的なサービスで言えば、医療や保険に加え、生活保護や児童福祉、老人福祉、障害者福祉などあらゆる人々への支援策が挙げられます。

しかし福祉にもお金や人員が必要であり、開発途上国では十分な体制を築けていないことが多くあります。また先進国の間でも、国民であればすべてのサービスを無償で受けられる国もあれば、受給資格が厳しい国などの差が見られます。

SDGsが目指すあらゆる年齢のすべての人々へ福祉を提供するには、各国の状況に合わせた努力だけでなく、国家間での協力も必要とされています。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは、「すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保険医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」のことを指します。これはWHO(世界保健機関)の設立70周年を記念して掲げられたテーマであり、目標3のターゲット3-8にあたる達成目標の1つとなっています。

UHCの達成のためには「保険医療サービスが身近に提供されていること」、「保険医療サービスの利用に当たって費用が障壁とならないこと」の2つが必要とされており、そのためには物理的アクセス、経済的アクセス、社会的アクセスの3つのアクセスの改善及び提供されるサービスの質の向上が求められています。

世界の健康と福祉の現状

世界の健康の現状

UNICEF(世界児童基金)の2018年の統計によると、世界の平均寿命は72歳で、1970年の57歳と比べると、医療技術の進歩や充実によって長寿化が実現されてきたことがわかります。

しかし、同統計における開発途上国だけのデータを見ると、平均寿命は65歳となっており、世界平均と比べて7歳の差があります。これは2000年の世界平均である66歳とほぼ同値であり、開発途上国の医療体制の大幅な遅れが伺えます。

また2018年における5歳児未満の年間死亡者数はおよそ532万人であり、依然として見過ごせない数となっています。子どもの健康の確保は非常に重要であり、健康のために平等な医療に受けれるように喫緊の対応が必要です。

このような健康を示す数値は先進国と途上国の間だけではなく、ヨーロッパとアフリカ、ラテンアメリカなど、地域の間でも格差が見られています。すべての国であらゆる人々が健康に生活するために、予断を許さない状況となっています。

(出典:UNICEF

世界の福祉の現状

国連が2020年に発表した世界幸福度報告(World Happiness Report)によると、1位フィンランド、2位デンマーク、3位スイス、4位アイスランド、5位ノルウェーという結果になりました。2020年に限らず、例年上位を占めるのは北欧諸国となっていますが、その理由の1つに充実した社会福祉があると考えられます。北欧では税金が高い代わりに社会福祉が手厚く、子ども一人当たり480日間も育児休暇が取れたり、出産費用や学費が無料などのさまざまなサービスを国が負担してくれます。これらの国による福祉サービスの提供は国民に安心感と暮らしやすさを与え、幸福度が高まる傾向にあるのです。

一方で最下位から3つの国はアフガニスタン、南スーダン、ジンバブエとアフリカや中東の国々が連なっています。これらの国々では特に、社会的支援や経済性、人生選択の自由度などにおいてスコアが低く、公的扶助の乏しさが伺えます。

このように福祉に関しても世界では格差が広がっていることや、福祉の欠乏が人々の幸福度の低下につながっていることからも、福祉の重要性が感じられます。

(出典:World Happiness Report 2020

開発途上国における不十分な医療体制と格差の広がり

世界では福祉が充実していないことで、死に直結する過酷な問題が依然として存在しています。特に重大な問題が医療体制が整っていないことです。

UNICEF(世界児童基金)が発表している世界子供白書によれば、2017年の時点でおよそ30万人の女性が、妊娠及び出産時に命を落としています。アメリカでも年に720名の女性が命を落としており、開発途上国だけでなく先進国を含めた医療の発展が求められています。

新型コロナウイルス感染症の流行により、病床数の確保も話題になりましたが、病床数の充実も命を救う上で重要な要因です。

これはOECD(経済協力機構)が発表する加盟国の人口1000人当たりの病床数のデータです。加盟国のうち日本が13.6と大幅な病床数を保有しているのに対し、メキシコでは1000人当たり1.6床と非常に少なくなっています。アフリカ諸国もおよそ1.8床前後と言われており、世界中で患者を十分に受け入れられない体制が残っています。病院は福祉の最後の砦でもあるため、早急な対応と、問題の解決が求められています。

(出典:UNICEF「世界子供白書」)

日本の健康と福祉

日本の健康の現状

日本は世界有数の長寿大国です。厚生労働省が2019年に発表した「主な国の平均寿命の年次推移」によると、日本の平均寿命は男性が81.41歳、女性が87.45歳であり、世界で最も長生きする国だとされています。

一方で、厚生労働省が掲げる21世紀の健康指針を表した「健康日本21」では、がんや循環器病などの「生活習慣病」の増加、また高齢化に伴う「寝たきり」や「痴呆」の増加が問題視されています。

日本は、医療技術の高さや病床数の多さで世界をリードしている一方で、少子高齢化やそれに伴う問題に対して、しっかりと向き合って行くことが求められているでしょう。

(出典:厚生労働省

医療機器数

日本は医療技術だけでなく、その設備においても世界有数の充実度を誇ります。

OECD(経済協力開発機構)によれば、2017年の段階で人口100万人あたりのCTスキャン数が111台で世界一位の保有率、またMRIの数も人口100万人あたり55.2台で世界一位の保有率となっています。

このような精密な判断や処置のための医療機器が充実していることは、死につながる重篤な病気の早期発見などにつながり、国民の健康の充実に大きく貢献していると考えられます。

(出典:OECD

日本の福祉の現状

厚生労働省の分野別の政策一覧において、福祉のカテゴリーは「障害者福祉」、「生活保護・福祉一般」、「介護・高齢者福祉」の3つに分けられています。また「子ども・子育て」に関しては別のカテゴリーとして分けられています。つまり、、日本では各年齢や支援を必要としている人々に対して、多くの公的扶助が準備されているのです。

これらの充実したサービスは国民の税金によって支えられていますが、年々増加傾向にあり、2010年から2020年にかけての10年間でも105兆円から126兆円とおよそ20兆円の増加であり、社会保障費の見直しが必要とされています。

(出典:厚生労働省

年金制度の脆弱性

健康や福祉の面で充実していると思われている日本ですが、問題点もいくつか挙げられます。その中でも特に問題視されているのが「年金問題」です。

年金制度は簡単に言えばセーフティネットの役割を果たし、年金として集められたお金は、老後やケガ・障害を患ったとき、万一死亡した際の遺族に対する生活保障のために使用されます。

この年金制度は、一般的に現役世代が積立て、高齢者に支払われるという形になっているため、少子高齢化が続く日本では制度の崩壊が危ぶまれています。公式見解としては、公的年金は日本の社会制度の根幹をなす制度のため、崩壊することはないとされていますが、動向をしっかりと見定め、必要があれば声をあげて見直しを求める姿勢が求められています。

(出典:厚生労働省

国民皆保険制度

日本における重要な福祉制度として、国民皆保険制度があります。これは日本国民全員に加入する義務がある保険制度で、国民全員を公的医療保険により守る制度となっています。

特徴的なのが医療費の3割負担であり、国民が安くて高い技術の医療サービスを受けられるよう、国民の税金に加え公費も追加され、高い質の福祉を提供しています。

(出典:厚生労働省

世界の取り組み事例 3選

ユニリーバによる手洗い普及プロジェクト

作成:SDGs CONNECT編集部

ユニリーバは紅茶のLiptonやシャンプーのLuxなどで有名な世界最大級の日用品/食品メーカーです。そんなユニリーバの取り組みに「プロジェクト・シャクティ」があります。

プロジェクト・シャクティは、不衛生な環境や生活習慣から30秒に1人、5歳以下の子どもが命を落としているインドにて、石鹸での手洗いを普及させ、子どもたちの命を守ろうというプロジェクトです。

ライフボーイという石鹸を用いたこのプロジェクトでは、すでに年間340万人以上に手洗いを啓発しており、多くの村で人々の健康を守ることに貢献しています。

(出典:ユニリーバ

国際図書館連盟による知識への平等なアクセスの実現

作成:SDGs CONNECT編集部

健康を守るために重要な要素として「教育」が挙げられます。正しい知識を平等に身に付けられる環境を作ることで、人々の命を守ることに繋がるからです。この知識への平等なアクセスを実現するために、国際図書館連盟は図書館の普及や図書館への寄付、結核予防のキャンペーンなどを行っています。

(出典:図書館国際連盟

デンマークの医療費の無償化

作成:SDGs CONNECT編集部

デンマークは世界でもトップクラスの福祉を実現している国として有名です。その中でも特に有名なのが「医療費の無償化」です。

デンマークでは、デンマークの居住者はもちろん、EU(欧州連合) / EEA(欧州経済領域)/ スイスの人々も無料で医療を受けることができます。また一時的にデンマークに滞在している人も、指定されている保険に加入している場合、国民と同じ条件でほとんどの場合で医療を無料で受けることができます。

(出典:EU公式サイト

日本の取り組み事例

くるみんマーク

くるみんマークとは、「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた企業に与えられる証のことです。認定された企業は、子育てサポート充実に向けて策定した目標を達成していることを表し、社員の福祉充実に力を入れている企業だとわかります。厚生労働省は、日本の少子高齢化対策として、子どもの健全な育成を支援すべく、育休や子育て支援サービスの充実を企業に呼びかけています。

(出典:厚生労働省

富士通は技術面から健康を支援

作成:SDGs CONNECT編集部

富士通では、自社のデジタルテクノロジーを国民の健康を守るために積極的に活用しています。具体的には、新型コロナウイルス流行の際に、医療従事者の感染リスクを押さえながら、感染状況や正確な情報を収集すべく、各自治体に相談窓口となるAIチャットボットを整備したり、演算速度世界一のスーパーコンピューター「富岳」を活用して、新薬の開発や飛沫感染のシミュレーションなど、幅広い社会問題の解決に貢献しています。

(出典:富士通

母子手帳による母子の健康状態・成長の管理

作成:SDGs CONNECT編集部

母子手帳とは、妊娠中や出産時の母子の状態、子どもの成長・健康状態を継続的に記録するための冊子のことです。日本では19784年に母子手帳の活用が始まりましたが、母子手帳の普及により、異なる場所や異なる医師の元で治療を受けても、一貫性を持った母子健康サービスが受けられるようになりました。これにより医療の最適化が進み、今では母子の死亡が最も少ない国の一つになっています。

この母子手帳の制度は世界でも注目されており、アジアをはじめアフリカなど世界約50ヵ国で年間2000万冊も発行され、多くの人々の健康を守るために活躍しています。今後は電子化も検討されており、さらなる活躍が期待されています。

(出典:国際協力機構

まとめ

当たり前の幸せを享受できない人々が、地球上にはまだまだいます。あらゆる人々の福祉と健康が充実している、そんな社会をみんなで作り上げるために、国を超えた協力が必要とされています。

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