【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ】
「飢餓」というワードを聞いてあなたはどんな情景を思い浮かべますか?
遠い国で井戸の水を運ぶ少年少女や、栄養失調で痩せ細った乳幼児たち・・・
どこか”自分には関係なさそう”と思っていませんか?
SDGsの目標2で掲げられている飢餓問題は決して「どこか遠くの国」の問題だけではありません。
今回はSDGsの2つ目の目標「飢餓をゼロに」を解説します。世界、日本の飢餓問題を取り上げ、飢餓問題を解決するために私たちにいま何ができるのかを考えていきたいと思います。
見出し
SDGsとは
SDGsは“Sustainable Development Goals”の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。
SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。
SDGs CONNECTでは、SDGsの各目標ごとに解説記事を公開しています。
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目標2「飢餓をゼロに」
目標2「飢餓をゼロに」の内容
SDGs目標2は「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」のテーマのもとに8個のターゲットで構成されています。
ユニセフによると現在、世界中には8億人もの人が飢えに苦しんでいるとされており、その全ての人を救うため食糧支援や農業の改善に取り組むことを進める項目です。
(引用:世界の飢餓人口、8億2,000万人以上 3年連続の増加に国連5機関が警鐘)
飢餓とは
辞書で「飢餓」の意味を引くと 「食べ物がなくて飢えること。飢え。 」と載っています。
しかし、SDGsの目標2である「飢餓をゼロに」では単に空腹を満たすだけを指すのではありません。
特定非営利活動法人であるhungar free worldの飢餓に関する記事では、飢餓とは 「生命の維持だけでなく、健康で社会的な活動を行えるかが基準 」となるとあります。国連食糧農業機関(FAO)では栄養不足を 「十分な食料、すなわち、健康的で活動的な生活を送るために十分な食物エネルギー量を継続的に入手することができないこと 」と定義しています。
SDGsの目標における「飢餓をゼロに」とは単純に食糧が足りずに困窮している状態の解消だけではなく、栄養不足を解消し健康的な生活を行える状態を目指すことが重要です。
「飢餓をゼロに」のターゲットと解決方法
ターゲットとは
SDGsにおけるターゲットとは「最終的な目標」に到達するために必要となる「より具体的な達成すべき目標・成果、必要な取り組み」のことを指します。
「1-1」のように数字で示されるものは、それぞれの項目の達成目標を示しています。
「1-a」のようにアルファベットで示されるものは、実現のための方法を示しています。
ここでは、難しい言葉で書かれがちなターゲットを一つひとつ噛み砕いて説明していきます。
2.1 | 2030 年まで゙に、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。 |
2.2 | 5歳未満の子どもの発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025 年までに達成するなど、2030 年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高 齢者の栄養ニーズへの対処を行う。 |
2.3 | 2030 年まで゙に、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融 サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住⺠、家族農家、 牧畜⺠及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。 |
2.4 | 2030 年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害 に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。 |
2.5 | 2020 年までに、国、地域及び国際レベルで適正に管理及び多様化された種子・植物バンクなども通じて、種子、栽培植物、飼育・家 畜化された動物及びこれらの近縁野生種の遺伝的多様性を維持し、国際的合意に基づき、遺伝資源及びこれに関連する伝統的な 知識へのアクセス及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を促進する。 |
2.a | 開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産能力向上のために、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大を図る。 |
2.b | ドーハ開発ラウンドの決議に従い、すべての形態の農産物輸出補 助金及び同等の効果を持つすべての輸出措置の並行的撤廃なとを通じて、世界の農産物市場における貿易制限や歪みを是正及び゙防止する。 |
2.c | 食料価格の極端な変動に⻭止めをかけるため、食料市場及びデリバティブ市場の適正な機能を確保するための措置を講じ、食料備蓄などの市場情報への適時のアクセスを容易にする。 |
世界の飢餓問題
ここでは「世界」の飢餓問題に目を向けます。
飢餓は世界の死亡原因の1位だとも言われています。飢餓は言うまでもなく世界的に見ても大きな問題であり、国際連合食糧農業機関(FAO)によると、6億9000万人が今日食べる物がないという状況なのです。
飢餓が起こる原因は紛争、災害、気候変動など数多く存在します。今回は、その中でも最も多い割合を占める紛争地域の飢餓問題と、新しい脅威となっている新型コロナウィルスの影響による飢餓問題という2つの事例にフォーカスして見ていきましょう。
紛争地域の飢餓問題
人口の4分の1以上が飢餓状態の国は世界中で以下の8カ国と言われています。
イエメン・南スーダン・シリア・レバノン・中央アフリカ共和国・ウクライナ・アフガニスタン・ソマリア |
この8つの国に共通することは「紛争地域である」ということです。紛争が飢餓の原因となる大きな理由は、軍事衝突や社会的混乱によって農業、市場、工場、水道などの食料の生産と配給に必要な環境や用具が失われてしまうことに起因しています。
特に、子供たちは、家族と死別し、食料確保のための十分なサポートを受けられず、さらに悲惨な状況に置かれているのも事実です。
新型コロナウィルスによる飢餓問題
2020年から世界中に蔓延している新型コロナウイルスは飢餓問題にも大きな影を落としました。
世界的パンデミックにより食糧の生産、流通、消費は大きなダメージを受け、世界中で消耗品や食料品の品薄が問題となりました。日本でも一時期、トイレットペーパーをはじめとする紙製品の入手が困難になったり、非常食の買い溜めによってスーパーマーケットが品薄になるといったことも起こりましたが、世界中で同じようなことが起きたのです。
ロックダウンした都市では、家を出ることもままならず、日用品を売る店でさえも自粛を要請されるケースもあり食糧調達が非常に困難でした。また飲食店などは売り上げの低迷により閉店を余儀なくされるケースもあり、さまざまな要因から飢餓に陥る人が増えたと考えられています。2021年1月現在も新型コロナウィルスは猛威を振るっており、正確なデータは発表されていませんが、約8,300万~1億3200万人が飢餓に陥るおそれがあるという報告もされています。
国連世界食糧計画(WFP)の取り組み
国連世界食糧計画(WFP)とは
国連世界食糧計画(WFP)は、飢餓のない世界を目指して活動する、国連の人道支援機関です。紛争や武力衝突に加え、干ばつ、洪水、地震、ハリーケーンによる農作物被害などの自然災害の緊急事態が発生した際には、いち早く必要とされる場所に食糧支援を届けています。また、緊急事態が過ぎ去った後には、食糧を通じた地域社会の生活再建や住民の生計の立て直し、将来の災害への備えを手助けするなど、開発支援を行っている機関です。
ここではWFPが世界の飢餓に対してどのような取り組みを行っているのか2つの例を挙げて詳しく紹介します。
国連世界食糧計画(WFP)の取り組み①学校給食支援
WFPでは究極の目標として「各国が独自で学校給食を実施できるようにすること」を掲げ、59カ国、1,730万人の子どもに給食を支援しています。
学校給食を実施する政府予算が確保できず、給食がない国も多々あります。その中で、過去60年間でWFPが支援してきた100カ国以上の国うち、1990年以降に支援を終了し、独自で学校給食を実施できるようになった国の数は44にのぼります。
なぜWFPが給食に力を入れているかというと、学校給食には子どもの栄養状態や健康を改善するだけではない効果があるからです。給食を食べて健康になることで、出席率や集中力が向上し、成績を伸ばすことにも繋がります。また、家庭が子どもを毎日学校に通わせる強いきっかけにもなるとされています。
国連世界食糧計画(WFP)の取り組み②母子栄養支援
WFPは母子栄養支援も行っています。この取り組みは、妊婦や幼い子どもを対象としており、1,030万以上の5歳以下の子どもが国連WFPの栄養支援を受けています。
WFPの母子栄養支援の狙いは、自然災害などの緊急時に食料支援をし命を救う取り組みとは異なり、適切な時に適切な栄養を与えることで慢性的な貧困の悪循環を打破することです。WFPの中では中核的な活動として挙げられており、真の飢餓からの脱却のためには必要不可欠なアプローチです。
また食糧を与えるだけでなく「隠れた飢餓」とも言われるビタミン不足問題にもアプローチすることで、生きるためだけの食事ではなく、健康に生きるための食事に意識を変えていくといった取り組みも行っています。
この取り組みにより長く続く人々の健康的な生活をサポートしています。
日本の飢餓問題
日本の飢餓問題
相対的貧困層の存在
日本には「相対的貧困層」と呼ばれる貧困層が存在します。
SDGs目標1の「貧困をなくそう」にも関連していますが、相対的貧困層とは収入が国の所得平均の中央値より半分以下の家庭のことを指します。日本では全国民の15.6%が相対的貧困層にあたると言われています。そしてこの層は知らず知らずの内に飢餓状態に陥っていることがあるのです。
飢餓状態に陥る原因として、食以外のことにお金を掛けざるを得ない状況が挙げられます。日本では衣・食・住の中でも「食」に対する意識が低い傾向にあり、食費よりも服や家賃にお金を掛けるケースが多いとされています。また、携帯電話やコンピューターが使えないと仕事をすることもできないため、通信費にもお金が掛かります。
身なりや生活は周りと大きな差がないため気付かれにくく、本人も自分が飢餓状態に陥っていると自覚しにくいのが日本の飢餓問題の恐ろさです。
日本でも餓死が発生している
日本でも餓死する人が存在します。
2020年9月には大阪府高石市で高齢女性が餓死し、同居の息子も衰弱して入院したことが明らかになっています。
日本において餓死の割合はとても少ないものですが、リーマンショックや東日本大震災など、経済的困窮者が多く出た年には栄養失調や食糧不足の割合が多くなっているというデータもあります。新型コロナウィルスの影響も飢餓の発生に大きく関係していると懸念されており、早急な調査と対策が求められています。
日本の飢餓問題への取り組み
取り組み①「こども食堂」
日本の飢餓問題解決の取り組みに「子ども食堂」の存在があります。
こども食堂とは、地域住民や自治体が主体となり、無料または低価格帯で子どもたちに食事を提供するコミュニティのことです。東京都大田区にある八百屋の店主が2012年に始めたものが元になって形成されています。
子ども食堂の取り組みは、単に「子どもたちの食事提供の場」を提供するだけではなく、帰りが遅い会社員、家事をする時間のない家族などが集まって食事をとれるという面も持ち合わせています。
手作りで温かいご飯を誰かと食べることができるというメリットがある一方で、それを提供するスタッフや運営費の確保には苦戦しているのが現状です。
はじめに飢餓の定義として「幸せな日常生活が脅かされている状態」という言葉を挙げましたが、この子ども食堂は食事を通して心身共に健康が保たれ、幸せな日常生活の象徴とも言える場だと言えます。取り組みに興味を持った方、支援をしてみたい方はぜひ以下のURLをご覧ください。
取り組み②「農業におけるレジリエンス強化」
飢餓に対する根本的な解決策として近年注力されているのが、「農業におけるレジリエンス強化」です。
レジリエンスとは、「地球環境の生命系のもつ柔軟性とその復元力」のことを指し、ここでは強靱な農業の推進という意味で用いられています。
2021年1月現在、日本の食料自給率は約40%程度しかないと言われています。食料自給率とは国内の食料消費が、国産でどの程度まかなえているかを示す指標のことです。低下の原因としては1993年に起こった米不足をきっかけに輸入食材が好まれるようになり、食生活が変化したことが原因だとされています。
食糧自給率が低いことのリスクとして、海外からの食料輸入がストップした場合に国民の生存を維持できなくなる危険性があると言われています。
その危険性を回避すべく、農林水産省は平成20年度に食料自給率向上に向けた「フード・アクション・ニッポン」を立ち上げました。
フード・アクション・ニッポンでは、消費者への啓発と意識改革にとどまらず、「生産」「流通」「消費」のそれぞれの現場で問題意識を認識・共有し、すべての国民が一体となって国産農産物の消費拡大に貢献するための取り組みを進めています。ここでは、地元の食材を積極的に食べる、食べ残しを減らすなど5つのアクションが設定されていて、身近なことから始めやすい環境作りを行っています。
取り組み③「残さず食べよう!30・10(さんまるいちまる)運動」
日本では各地域でフードロス削減のために様々な取り組みが行われています。今回取り上げる「残さず食べよう!30・10(さんまるいちまる)運動」もその1つです。
この取り組みは長野県松本市が行っているもので、飲食店での食べ残しによる食品ロスを削減するための運動です。
飲食店から廃棄される生ごみの56%が食べ残しによるものだという事実に基づき、食べ残しの削減が食品ロスを減らすことに繋がることから、このような取り組みが2019年にスタートしました。
取り組みの名前になっている「30・10(さんまるいちまる)」は「10月30日」が「食品ロス削減の日」に定められていることが由来になっています。
またこの「30・10(さんまるいちまる)」は、宴会時における食べ残しを減らすためのタイムスケジュールも表しています。
乾杯の後の30分間とお開き前の10分間は自分の席について料理を楽しみ、「もったいない」を心がけ、食品ロス削減に取り組むのがこの活動です。
松本市の中で食品ロス削減を推進する飲食店、宿泊施設等又は事業所などは「残さず食べよう!」推進店・事業所として認定されており、認知されている施設を使用することが市民にも推奨されています。
世界の飢餓をなくすために私たちができること
食品ロスを減らそう
食品ロスとは本来食べられるのに捨てられてしまう食品のことを指します。
日本の食品廃棄物等は年間2,550万トンと言われていて、その中で本来食べられるのに捨てられる食品=食品ロスの量は年間612万トンにも及びます。
1人当たりの食品ロス量は1年で約48kg、つまり毎日茶碗一杯を食べずに捨てているのと一緒なのです。
食品ロスをなくすには、お店や家で食べ残さないことはもちろん、食品を買うときに賞味期限の近いものを買うなど毎日の小さな行動の積み重ねが大切です。
フェアトレードについて知ろう
フェアトレードとは公正な取引のことを指します。
日本は全体の60%ほどの食糧を輸入品に頼っており、私たちの生活でも身近なものです。コーヒーやチョコレートなどは特に輸入品が多いですが、スーパーマーケットなどで気軽に買える値段で販売されています。
しかし、輸入品は輸送費や輸送にかかる人件費など、国内製品よりも時間と手間がかかっているのに、なぜ安い値段で店頭に並んでいるのでしょうか?それはフェアトレードが行われていないからです。
日本で安く販売するために、原産国の人々に正当な対価が生産者に支払われなかったり、生産性を上げるために必要以上の農薬が使用され環境が破壊されたり、生産者が劣悪な労働環境で働かされたりといった事態が起こっています。
まずこのような現状を知ることがフェアトレードを促進するための第一歩です。
またフェアトレードの明確な基準を設定し、それを守った製品にラベルを貼付して分かりやすく伝え、フェアトレードを広めていこうと誕生したのが、フェアトレードのラベルです。このラベルのある商品はフェアトレードの基準をクリアし、原産国の人々と公正な取引を結んでいます。
食糧自給率が低く輸入に頼っている日本だからこそ、「公正に取引されている商品を買う」という心掛けは消費者としての大きな責任と言えます。また、フェアトレードを促進することは世界の人々の貧困を撲滅し、飢餓の解決にも繋がっていきます。
まとめ
日本に暮らしていると飢餓はどこか無関係なことにも感じてしまいます。
ボランティアに行ったり、募金をしたりするのは難しいかもしれません。しかし日々の行動をほんの少し変えるだけでも、日本、そして世界の飢餓はなくなっていきます。
スーパーマーケットに行った時にフェアトレードのチョコレートを買ってみる、外食した時にいつもより一品減らしてみる、ごはんを食べる時にきちんと「いただきます」「ごちそうさまでした」と言うなど、一人ひとりの意識を変えていくことが、世界中の人々が幸せに食事ができる日の実現に深く繋がっているのです。
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