【更新日:2021年7月24日 by 中村真唯】
赤い背景に黄色字のMの看板でおなじみの、マクドナルド。
日本だけでも、その店舗数は約2900近くあり、全世界の人に美味しくてリーズナブルな食事を提供している。
全世界で認知度が高く、生産量も大規模なマクドナルドは、SDGsに対してどのような考えを持ち、どのように関わりを持っているのか。
今回は日本マクドナルド株式会社の広報、石黒様を取材した。マクドナルドが特に注力しているSDGsの取り組みやその推進体制、約17万人のクルーをまとめ上げる創業時から一貫した理念について伺う。
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飲食業界をリードする、「日本で1番知られている会社」
ーーまずはじめに、石黒さんの自己紹介をお願いいたします。
石黒: マクドナルドの広報部でマネージャーをしております、石黒です。
主に、ハンバーガーなどの商品広報以外のサプライチェーンやピープル関連の広報を担当していて、ブランド自体を好きになってもらうための情報発信をしています。また、マクドナルドではSDGsに部署横断型のプロジェクトで取り組んでいて、そのリードもしています。
モバイルでのオーダーや、ドライブスルーなど、業界をリードするムーブメントを作ってきました。会社の情報を発信するのが広報の役割で、日々やりがいを感じています。
ーーマクドナルドの特徴を教えてください。
石黒:マクドナルドは日本で1番知られていると言っても過言ではないほど、知名度が高い会社です。小さなお子様からご高齢の方まで親しんでいただいているレストランチェーンです。今、全国に約2900店舗を展開して、約17万人のクルーが働いています。
ちょうど今年(2021年)で日本上陸50周年を迎えるのですが、マクドナルドは飲食分野のリーダーだと思います。リーダーとして市場を牽引していく思いが強い会社だと思います。
ーーマクドナルドがSDGsを意識されたのはいつ頃なんですか?
石黒:いろんな会社やメディアさんからその質問聞かれるのですが、マクドナルドはSDGsによって取り組みを始めたり、社内体制を変えたりしていません。強いて言えばマテリアリティを決めたことくらいです。
今のマクドナルドのシステムを作った創業者のレイ・クロックがフランチャイズシステムを作り上げて展開して、全世界に広げていく時に、マクドナルドは「We Give Back to Our Community(地域にお返しする)」ことを掲げました。例えば地域の方と一緒にゴミ拾いをするなどの社会貢献活動はもともとやっていました。
温かく美味しい食事をリーズナブルに
ーー日本マクドナルドは、例えばどんな課題に注力していますか?
石黒:8番の「働きがいも経済成長も」に大きく注力しています。
日本マクドナルドは、全国約2900店舗に約17万人のクルーが主役となって店舗運営を支えて頂いています。だからこそ、クルーの方が働きがいを持って働いてもらえるような仕組みを作っています。
マクドナルドのクルーは実は定年がありません。今働いているクルーの最高齢は92歳(取材時)です。
ーー92歳まで多彩な人が活躍しているんですね。
石黒:本当にすごいですよね。高校生の15歳から最高齢は92歳の方まで、一緒に働いているんです。
マクドナルドに来ていただくお客様はもっと年齢層が広いです。お子様から、おじいちゃん、おばあちゃんまで、さまざまな世代の方に来ていただいています。受け入れる私たちも、多様でなければならないし、そうでなければ、お客様の気持ちに寄り添えないと考えています。
ーー多様な働き方を実現するために、どんな仕組みを取り入れているのでしょうか。
石黒:シニア向けの仕事があるとか、若者向けの仕事があるのではなく、92歳の人と15歳の人でも基本同じ仕事をしていただきます。でも、その方のライフスタイルに合わせたシフトや役割が組めるようになっているんです。また、マクドナルドにはEVP(Employee Value Proposition)という企業が従業員に提供できる価値が重要だと考えており、「Flexibility」「Family and Friends」「Future」という3つを定義しています。
ーーそれぞれどんな取り組みなのでしょうか。
石黒:Flexibility(柔軟性)に関しては、クルーの方のシフトは週1回2時間からOKにしているなど、自分のライフスタイルに合わせて柔軟に働くことができます。さらにシフトは毎週提出する仕組みにしています。
通常のアルバイトは、シフトの提出が2週間に1回あるなど、予定が調整しづらかったり、「最低週3回はシフトに入ってね」と言われることも多いと思います。
主婦の方はお子さんの面倒をみなければいけないので、シフトに入れなくなった時に、学生が夏休みの時間を利用してシフトに入ったり、朝の時間も、シニアの方が入ってくれることなどによって個人のライフスタイルが尊重されお店が維持されています。
Family & Friends(家族や友人のように)に関しては、「インクルージョン」を重視しています。マクドナルドで働いているクルーは、仲間意識がとても強いことが特徴です。例えば、大学生がマネージャーで、シニアのクルーに仕事を教えたり、外国人の方や新人にも仕事を積極的に教え合う文化があります。全員がチームの大事なメンバーであることを感じてもらいながら、お互いに支え合う仲間意識によって店舗が経営されています。
Future(将来に役立つスキル)に関しても、多彩なトレーニングシステムがあったり、レコグニション(お互いの努力や実績を認識・承認する)する文化があったりと、一生をかけて成長できるスキルを学べる機会があります。
ーーダイバーシティを保つための仕組みは何かありますか?
石黒:ハンバーガー大学という社内教育機関大学があります。ハンバーガーの作り方を学ぶ場ではありません。リーダーシップを学ぶ場なんです。
マクドナルドの店舗には、たくさんの人が働いています。その人々をどのように束ねていくか、どうリードしていくかを勉強することはマクドナルドにおいてはとても大切です。この仕組みがあるからこそ、いろんな方を受け入れて、1つのチームになっていくのだと思っています。
事業の節々まで責任を全うするマクドナルド
ーー他にも注力している課題を教えてください。
石黒:その他に特化している部分は、目標2の「飢餓をゼロに」や目標12の「作る責任 使う責任」です。
これは「温かくて美味しい食事をリーズナブルな価格で」というマクドナルドの事業自体に当てはまっています。目標12 「作る責任、使う責任」も、年間13億個のハンバーガー類を作っている会社として持続可能な食材を調達することを意識しています。
ーー「持続可能な食料調達」について、マクドナルドが独自に取り組んでいることをおしえてください。
石黒:牛がいなくなったり、コーヒー豆が取れなくなったりしたら、マクドナルドはビジネスができません。だからこそ、しっかりと責任を持って調達することを意識しています。
お客さんをスマイルにしたいという理念が元々マクドナルドの中にはあったのですが、振り返れば、牛を育ててくれたり、コーヒー豆を栽培してくれている農家さんもマクドナルドを支えてくださっています。あと材料を運んできてくれる物流のトラックの運転手さんや船を操縦してくださる人とか、お客様はもちろんのこと、マクドナルドにかかわる全ての人たちが笑顔にならないといけないなと思っています。
そこでサプライチェーンを通じて笑顔になる調達を意識するようになりました。第3者の方に認証してもらう取り組みをしています。
具体的にはフィレオフィッシュだと、MSC認証という魚のマーク、コーヒーは、レインフォレスト・アライアンス認証というカエルのマーク、お客様提供用紙製容器包装類にはFSC認証という木のマークがついています。牛に関しては、サスティナブル・ラベルは存在しないのですが、持続可能な調達のためのラウンドテーブルに参加するなどの取り組みを進めています。また、ポテトやフィレオフィッシュを揚げるパーム油はRSPO認証を取っています。
持続可能性を考える上で、使わないことが良いとは一概には言えません。例えば紙についていえば、木材の買い手がいなくなると、林業に携わっている人が収入を維持できなくて、林業を離れて森が荒れてしまう。これはサスティナブルでは無いんですよね。
しっかりと計画的に育てて、伐採して、買う。このループがすごく大切だと思います。お客様もマークを意識してマクドナルドの商品を買っていただいて、自分もサステナブルに貢献していると思っていただければ嬉しいです。
ーー持続可能な調達というのは環境に優しいだけでは成り立たないんですね。
石黒: 環境にも社会にも経済にも優しいことが持続可能な調達には必要です。企業が経済活動をできないと、みなさん収入が得られなくなり、購買できない、という負のループになってしまいます。
環境と社会と経済、この3つをきちんと回していくことがすごく大切だと思います。
そこが私がSDGsの好きなところでもあります。どうしても社会貢献となると、事業会社が何かしてあげるみたいなイメージがあったのですが、それはちょっと違うなとずっと思っていたんです。
SDGsは環境も経済もWinWinで進めていくことが重要です。
ーーハッピーセットのおもちゃもマクドナルドさんが作られているのですか?
石黒:はい。実はハッピーセットのおもちゃも重要です。私たちは年間1億個のおもちゃを作っています。
「作る責任、使う責任」をまっとうするために、店舗でハッピーセットのおもちゃを回収して、店頭で使うトレーにリサイクルするなどの取り組みをしています。
最も重要なのはパートナーシップ|目標17
ーーSDGsの目標17で掲げられているパートナーシップにも取り組まれていますよね。
石黒:私は目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」が1番好きなのですが、この目標17にも取り組んでいます。
企業が、単体でできることは本当に小さいと思います。だからこそ、パートナーシップが重要だと思っています。例えば環境団体の方と一緒に取り組むとか、最近では教育機関とのパートナーシップも構築しています。
例えば、最近では今、関東学院大学で生物多様性について授業をさせていただいています。学生には、生物多様性を考えるトレイマットをデザインしてもらい、そのデザインコンペを行っています。そして、実際に大学生が作ったトレイマットを店舗で使用しようとしています。
ーーどんなトレイマットが生まれてくるんですか?
石黒:オリエンテーションが終わったばかりのため、作ってもらうのはこれからです。「持続可能な食材の調達」について学んでいだたいた上で、それをマクドナルドに来たお客さんにそれを伝えるには、どうデザインしたらいいかをテーマにトレイマットのデザインを作っていただいています。
学生とやることによって、学生の視点を取り入れられるだけでなく、学生と一緒にやってることを、知った人は、面白いこと取り組みをしているなと興味を持ってもらえると思います。一部の人の課題ではなくて、みんなで考えようよというのが目標17だと思いますし、マクドナルドとしてその可能性を広げています。
横断組織でSDGsを全社で推進
ーー幅広くSDGsに取り組まれていますが、どのような体制でSDGsを推進しているのでしょうか。
石黒:ステアリングコミッティという横断組織を作っています。部署ごとの担当が集まって議論していて、それぞれの部署に持ち帰って、SDGsに取り組んでいます。
ーー実際に取り組みにつながったケースはありますか?
石黒:その最たるものが、おもちゃリサイクルです。
最初は一部の店舗で行っていたのですが、お客さんの反応がとてもよく、全国展開しました。
おもちゃがトレイに生まれ変わったというストーリーは、お子さんに、とてもわかりやすいですよね。
ーー横断組織で、事業の内部にまで目を向けてSDGsに取り組んでいらっしゃることが印象的です。SDGsの取り組みがCSRの延長線では、ダメですよね。
石黒:社会に貢献をしない事業で起業した人なんて、誰一人いないという話を聞いたことがあります。そもそもビジネス自体が社会に貢献していることを理解することが大切です。そういった意味で、どの企業もSDGsに貢献していると思います。
そこをしっかりと紐解いて、具現化する、言語化することが重要だと思います。SDGsの取り組みを、やっていないわけではなく、言語化するまでに辿り着けてない企業も多いのではないでしょうか。
マクドナルドのパーパスをもとに、さらなるSDGsの取り組みを
ーー日本マクドナルドの今後の展望について聞かせてください。
石黒:マクドナルドには、「美味しさと、笑顔を地域の皆様に」というパーパスがあります。これを今、全社で共有しています。
もちろんハンバーガーを売ることによって、お客様に美味しさを与えることは忘れてはいけません。また、お客様だけではなく、サプライチェーンで物流に関わる人や農家の人、地域の方も含めてすべての人に笑顔になってほしいという思いが込められています。
この想いを実現できるような活動を積極的にしていこうと考えています。
さいごに
マクドナルドの取材をして感じたことは、全社員、全クルーが企業の理念によってまとまっていること。世界に広がるネットワークでそれぞれ役割や業務は違えど、「お客様の笑顔」を作るという考えは同じなのだ。
従業員の数、生産に使う材料の量、全てが大規模である会社であるからこそ、環境面でかける負荷も大きいが、同時に経済に生み出す価値も大きい。
環境、経済、社会全体にとって優しい選択が大企業には求められていると感じた。