【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ】
SDGsでは、5番目のゴールとしてジェンダー平等が掲げられています。近年では、同性愛者など、社会的な性差(ジェンダー)の多様性が認められる傾向がある他、女性が積極的に社会に参画していく重要性が認識されてきています。世界には女性の権利が男性のよりも守られていなかったり、性別によって迫害を受ける地域もあり、ジェンダー差別は世界的に喫緊の課題です。
みなさんは日本では、どのくらいジェンダー平等が実現されていると思いますか?
日本においても、経済的、社会的、文化的に女性の地位が低い問題や、男女の枠組みを超えたジェンダーへの認識の低さが顕在化しており、ジェンダー問題は早急に対応すべき社会課題の1つです。
ジェンダー差別は、私たち一人ひとりの価値観に起因します。この記事では、SDGsで掲げられた5番目のゴール「ジェンダー平等を実現しよう」の概要を詳しく解説しつつ、ジェンダー問題の現状や国内外の取り組みを詳しく解説します。
見出し
SDGsとは
SDGsは“Sustainable Development Goals”の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。
SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。
SDGs CONNECTでは、SDGsの各目標ごとに解説記事を公開しています。
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目標5の概要
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」はジェンダーを理由にした差別をなくすための目標です。SDGsの中でも日本が特に解決をしなければいけない重要度が高い目標と言えます。
「ジェンダー平等」というと「女性への差別」を連想しがちですが、社会を見ると、男性に対する差別から生まれる問題も多く生まれています。レディースデーなど女性のみへの割引、「男だから」「男なのに」というステレオタイプの押し付けも男性差別の一例です。また、性別としての男女だけでなく、ジェンダーの多様性をはらむ課題も山積しています。近年では、従来の枠にとらわれないジェンダーの在り方が世界的に認識され始めています。
真のジェンダー平等を実現するためには、ジェンダーに対するそもそもの固定概念や無意識な差別(マイクロアグレッション)を払拭することが最も重要と言えます。
そもそもジェンダーとはなにか
ジェンダー(gender)とは、生物学的な性別(sex)に対して、社会的・文化的につくられる性別のことを指します。
近年では、LGBT+など個々のアイデンティティを含めて表現される場合もあります。
LGBT+とは「男性」「女性」に限らない性の多様化を表す言葉。SOGIは性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)を表す。LGBT差別やSOGIハラといった言葉があるように、性の多様化が遅れている現代において「普通」ではないことを指摘し好奇の目を向けることは、ジェンダー平等を遠ざける原因の一つになる。
ターゲット
世界中で、女性は歴史的にも社会的に弱い立場に置かれてきました。近年では世界的にジェンダー平等への動きが強まってきていますが、昔ながらの慣習や宗教を理由として女性差別が依然として行われているのが現実です。
目標5のターゲットには、主に女性への不当な扱いをなくし、女性が社会で活躍ができるよう推進することが掲げられています。
5.1 |
あらゆる場所におけるすべての女性および女子に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。 |
5.2 | 人身売買や性的、その他の種類の搾取など、すべての女性および女子に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する。 |
5.3 | 未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚、および女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する。 |
5.4 | 公共のサービス、インフラ、および社会保障政策の提供、ならびに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。 |
5.5 | 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参加および平等なリーダーシップの機会を確保する。 |
5.6 | 国際人口開発会議(ICPD)の行動計画および北京行動綱領、ならびにこれらの検討会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康および権利への普遍的アクセスを確保する。 |
5.a | 女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、ならびに各国法に従い、オーナーシップ、および土地その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源に対するアクセスを与えるための改革に着手する。 |
5.b | 女性のエンパワーメント促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する。 |
5.c | ジェンダー平等の促進、ならびにすべての女性および女子のあらゆるレベルでのエンパワーメントのための適正な政策および拘束力のある法規を導入・強化する。 |
世界のジェンダー平等の現状
ジェンダーギャップ指数からみるジェンダー平等の現状
各国のジェンダーの平等の現状を測る方法として、ジェンダーギャップ指数があります。世界経済フォーラムは世界153カ国を対象にジェンダーギャップ指数を調査しデータを毎年公表しています。ジェンダーギャップ指数は政治、経済、教育、健康の4分野14項目に分けられ、それぞれ0(不平等)から1.0(平等)で評価されます。下図が2019年度の上位国及び、主な国のジェンダーギャップ指数です。
G7の現状
G7はフランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの代表的な先進国の7カ国を指します。アメリカでは企業での性差別を違法とする法律を定めたり、ドイツでは女性管理職を4割まで上げる取り組みがなされています。
G7で働く女性が増えてきてはいるものの、男女間の賃金の差が未だ大きくあることが男女格差がなくならない原因の一つです。OECDの調査では韓国の男女の賃金の差が32.5%と一番高く、次いで日本(23.5%)、アメリカ(18.5%)、カナダ(17.6%)となっており、OECDの平均を上回っています。イタリアのみが5.6%とOECD平均を下回った結果となりました。
また、「男が仕事をして女が家事をする」という考えが日本だけでなく、ドイツやフランスにおいても根強く存在し、性別役割の固定概念を払拭することができていません。いくら社会全体で働く女性が増えたり、育休制度が充実しても、個人の意識改革による性別への先入観や固定概念をなくすことができなければジェンダー平等は実現は難しいのです。
開発途上国での問題
開発途上国での現状として、女性器切除や児童労働が、ジェンダーギャップを広げる主な原因となっています。
また女児がまだ若い段階で結婚や妊娠をさせられたりと、特にターゲット5.2と5.3の解決が遅れています。開発途上国では、宗教的・文化的な理由により女性と男性とでの扱いに差があります。
さらに、貧困などの経済的な理由により女性の教育を受ける機会が男性よりも少なく、結果としての社会進出への道が閉ざされてしまっています。
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日本のジェンダー平等の現状
2019年度の日本のジェンダーギャップ指数は153カ国中121位であり、G7の中で最下位を記録しました。分野別の点数を1位のアイスランドと比べて見ると、健康と教育に差はあまりないものの、経済と政治の項目でジェンダー平等の数値が大きく開いており、世界水準から見ても低い数値となっています。
職場での性差別の現状
国際労働機関(ILO)が発表した世界の管理職に就く男女の割合において、女性の割合は平均27.1%であったのに対し、日本はわずか12%でした。小泉内閣が当初2020年までに男女比率を30%まで引き上げると発表したものの、その値には及びませんでした。G7の中でも日本は最下位の数値となっています。
その原因の1つに、男性は管理職へ進めるのに、女性は能力があっても管理職へ進みづらい現状、つまりガラスの天井が行く手を阻んでいます。働く女性の割合は増えてきてはいるものの、男女が対等な立場で働くことが実現されておらず、ジェンダー平等へは多くの課題が残されています。
また、ジェンダーハラスメントと呼ばれる、職場内での性的役割の強要もジェンダー差別を助長させる深刻な問題です。例として、「来客時のお茶出しは女性がするべき」「重い荷物は男性が持つべき」「女性はスカートにパンプスを履くべき」などが挙げられます。
政界での性差別の現状
さらに、女性の政治参画も問題視されています。その一つの事例として菅内閣に女性官僚が2人しか選ばれなかったことが挙げられます。「女性だから」という理由で官僚が選ばれる状態は理想ではないですが、安倍内閣においても「すべての女性が輝く社会づくり」を提唱していたものの、女性官僚は少なく、社会的にジェンダーの多様性に欠けていることが伺えます。
世界的にも女性の官僚や首相が増えている中で、日本における女性の政界進出は遅れており、さらなる政界でのジェンダー平等の促進が求められます。
しかし、ただ女性だからといって採用するのではなく、性別にとらわれず、その人の能力を評価しながら政界において多様化が実現することが重要です。
教育現場での性差別の現状
ジェンダーギャップ指数が高かった教育においても、学校内や受験時におけるジェンダー差別が起きている現状があります。
2018年東京医科大学で受験生の性別によって点数の足切りや加点を行なっていたことが明らかになりました。女性にはより高い水準を求めて、受験時の点数の配分を操作していたのです。この事件の背景には、医師不足の問題があり、産休育休により男性と比べて勤務時間が短くなりがちな女性の採用割合を3割に抑える狙いがありました。
今回の問題の背景には、女性は育休をとり、男性は仕事をする(つまり男性は育休を取らず育児は女性任せにする)という固定概念が前提として存在します。しかし、大学病院と付属する医学部入試は、単なる学力試験ではなく医者としての採用試験でもあるため、「医療現場では仕方のないことだ」と擁護する意見もあり、賛否両論する声が挙げられています。
また、2017年には大阪電気通信大学で女子受験者にのみ加点を行う旨を入試要項に記載し、男子受験者への不当な差別だとして問題になりました。同大学は理系に進む女子学生を増やす狙いがありましたが、男女関わらず性別によって点数を操作することは立派な性差別に当たります。
受験においての男女差別に加えて、学校内でのジェンダー差別に対する配慮には解決の余地があります。学校の制服が男子はスラックス、女子はスカートと指定されていることは、性の多様化が考慮されていない一例に過ぎません。更衣室やトイレなど男女で分けられる施設でも多様性への変革が求められています。
(参照:東京医大だけじゃない大学受験の性差別…「面接や生物の配点で調整可能」の私大医学部、「女子優遇」の東大推薦入試も)
世界の取り組み
指数トップの国の取り組み
アイスランド、ノルウェー、フィンランドなどの北欧諸国がジェンダーギャップ指数の上位にランクインしています。11年連続ジェンダーギャップ指数1位をキープしているアイスランドは、男女ともに育休を取得できる体制が整っていることが、ジェンダー平等を実現している大きな要素の一つだと言えます。具体的には、9ヶ月の育休期間(母親に3ヶ月、父親に3ヶ月、残りの3ヶ月は両親で分担)を設け、男性側の取得率が85%と、積極的に育休取得を行なっています。また、クオーター制などを導入したことで働き方改革がなされ、女性管理職の割合を4割以上と全企業へ義務付けることで、女性の社会進出を後押ししています。
(参照:11年連続!アイスランドがジェンダーギャップ指数世界1位になるまで)
NGOの取り組み
国際NGOプラン・インターナショナルは、Because I am a Girl「女の子だから」キャンペーンを通して、世界中の女の子の権利を発信し、サポートする活動を行なっています。特に開発途上国では、貧困を理由に女の子に教育を与える意義がないと考えている国や地域もあり、早期結婚や出産も女児の将来に大きな影響を及ぼします。女性への支援の他に、子供達への教育支援や、ターゲット5.6にある性と生殖に関する正しい知識を教える取り組みも行なっています。
(参照:Plan International: Advancing children’s rights and equality for girls)
グローバル企業の取り組み
アメリカに本社を置き、グローバル企業として名を挙げているP&Gは、高い水準でジェンダー平等を実現している企業としてGender Fair認証されています。男性向け、女性向けと性別によって製品を作り分けていた同社ですが、3つの分野での改革によりジェンダー平等への取り組みを促進しています。
一つ目は広告・メディアです。世の中に大きな影響力をもたらすメディアでの性差別に当たる発言や描写をなくすすることで、誰でも気持ちよく製品を選べるような広告・メディア制作を行っています。
二つ目は女性の教育と社会進出の機会のサポートです。開発途上国などの貧困地域で女児の教育の機会を提供したり、世界各国で女性リーダーの育成を行なっています。
三つ目は社内の男女比50:50を目指し、社員がありのままの自分で活躍できるような体制を整えることです。充実した福利厚生の提供や、女性同士、男性同士で支え合える仕組み作りなど、従来は男性社会であった製造業において女性も参画し、働きやすい環境作りがなされています。
(参照:ジェンダー平等 | P&G)
日本の取り組み
国としての取り組み
日本のジェンダー問題の中で注目度が高いのは、女性の社会参画です。世界的に見ると、日本の取り組みは遅れていますが、日本では、1999年に男女共同参画社会基本法が施行され、女性の社会参画の重要性が国内で再認識されました。この法律は、男女という枠組みにとらわれずに一人ひとりが社会の構成員として対等に生きていくことのできる社会の実現を目指しています。
(参照:男女共同参画社会基本法 | 内閣府)
自治体の取り組み
自治体が行なっている例として、パートナーシップ制度が挙げられます。この制度は、法律上の婚姻とは異なるものとして、男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備えた、戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係を「パートナーシップ」と定義し、一定の条件を満たした場合にパートナーの関係であることを証明するものです。国内では、2015年11月に東京都渋谷区と世田谷区がパートナーシップ証明書を発行する取り組みを開始しました。その取り組みは東京都だけでなく全国に広まり、2021年1月8日時点では全国74の自治体で導入されています。
(参照:日本のパートナーシップ制度 | 結婚の自由をすべての人に)
企業の取り組み
大手化学メーカーである花王は、世界各国のジェンダー平等の取り組みが優れている企業に贈られる「2020年男女平等指数」(ブルームバーグ社主催)に選ばれました。国内では、日経WOMANと日経ウーマノミクス・プロジェクトが実施する「女性が活躍する会社BEST100」において2020年度3位でした。取り組みとしては、1990年代に育児支援制度を確立し、以降、女性の結婚や産後の働き方改革や育児と仕事の両立を叶えるワークライフバランスを支える施策を行なっています。その結果、2019年度の女性管理職比率は21.2%を達成しました。さらに、2018年には花王グループの美容系の子会社2社の社長に女性が就任するなど、女性の活躍を積極的に推進していります。
(参照:2020年版「女性が活躍する会社BEST100」 総合ランキング1位は日本IBMに)
さいごに
日本では、「男は仕事、女は家庭」といった概念が昔から根強くあります。
近年では、働く女性を支援する仕組みであったり、イクメンや家政夫を題材としたドラマが放映され、ジェンダーロールの払拭を浸透させていく動きが見られますが、普段何気なく使ってしまっている、「男らしさ」「女らしさ」という言葉や概念も性差別に繋がります。
ジェンダー問題に取り組む際は女性のことのみならず、性の多様性を意識することが大切です。
つまり、ジェンダーによる違いによる差別なく、それぞれが平等な権利を得ることができる取り組みを考える必要性があります。
そのためにはまず一人ひとりの意識改革が欠かせません。職場や学校内で起こる性差別だけでなく、家庭内や自分自身の持つ性への価値観とも一度向き合ってみてはいかがでしょうか?
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