【更新日:2021年6月10日 by おざけん】
国民の15.6%が相対的貧困層に相当する日本。この国では、子どもの7人に1人、ひとり親世帯の子どもの半数以上が貧困状態にあると言われています。
また、新型コロナウイルスの影響で解雇・雇い止めされる人が増加する中、「コロナ貧困」を耳にする機会が増えてきました。
そんな状況下で、子どもたちに温かくて栄養のある食事を提供する「子ども食堂」の取り組みをご存知でしょうか?
5月23日、神奈川県藤沢市の湘南わもっか保育園で子ども食堂が開催されました。この記事では、子ども食堂の概要と運営方法を解説し、現場の様子をレポートします。
相対的貧困とは、その国の生活水準や文化水準を下回る状態に陥っていることを指します。顕著な例としては、所得格差の拡大や失業率の増加など、社会格差の拡大が挙げられます。日本でも相対的貧困の問題は深刻化しており、2018年の厚生労働省の報告書によると、7人に1人の子供が相対的貧困状態に陥っていると報告されています。
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地域の社交場としても役割を果たす「子ども食堂」
子ども食堂とは?
子ども食堂は、子どもたちに栄養のある食事を無料または低価格で提供し、温かい食卓を地域住民とともに囲む取り組みです。全国こども食堂支援センター・むすびえによると、その数は2019年時点で全国で3700か所以上に上ります。
◎国内における「子ども食堂」の数の推移
総務省統計局の「平成27年(2015年)国勢調査」によると、夫婦共働きの世帯はデータを収集し始めた1980年から年々増加傾向にあり、2015年には全体の約6割を占めるようになりました。子どもが家族と食卓を囲む「共食」の場も減少しつつあると考えられます。
子ども食堂の開催は、満足に食事を取れていない貧困家庭の子どもの栄養不足解消だけでなく、地域コミュニティに子どもの居場所を確保することにもつながるのです。
コロナ禍の子ども食堂
新型コロナウイルスの世界的流行は当然、子ども食堂の運営にも多大な影響を及ぼしています。
むすびえが2021年2月に実施したアンケート調査によると、食堂サービスを継続している団体は約1割にとどまっています。
2割程度の団体は弁当の配布などで支援を続けていますが、「感染防止の対応が難しい」や「資金の不足」などを理由に、全体の約半数が食堂の再開時期の見通しを立てられていない状況です。
子ども食堂とSDGs
子ども食堂の取り組みはSDGsゴール1、2、3、4の達成に関わってきます。
ゴール1「貧困をなくそう」では、「2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる」ことが掲げられており、貧困家庭への早急な支援が求められています。
貧困状態にある家庭の子どもは、満足な食事が取れず、十分な栄養を接種できていない可能性が高いです。子どもたちに栄養のある食事を提供する取り組みは、ゴール2「飢餓をゼロに」、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」に大きく貢献します。
また、こども食堂の温かい食卓を囲みながら「食育」も行うことで、学びの相乗効果も期待できます。食育は、ゴール4「質の高い教育をみんなに」で重視されている「持続可能な開発のための教育」に当てはまります。
何を何のために食べるのか?「食育」で学ぶ大切な知識
子ども食堂が担う食育とは?
子ども食堂は、人が生きる上で必要になる「食」の基礎的な知識を身に着ける「食育」を行う場としても重要な役割を果たします。
近年、食品加工技術やサプライチェーンの著しい発達により、レトルト食品をはじめとした加工食品を食べる機会が増加しています。素材に直接触れ、食事ができるまでの過程を考える機会は減少傾向にあると言えるでしょう。
食育とは、あらゆる経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現できる人間を育てることです。全国の教育現場では、調理講習や農林漁業体験などの形で実践されています。
参考:食育の推進:農林水産省
◎生鮮食品、加工食品、外食ごとの食料支出額の推移
子ども食堂で実践される食育
温かい手作りの食事を提供する子ども食堂では、食材の調達から調理までの過程が一通り行われるため、食育を実践する場として適していると言えます。配膳や調理の手伝い、献立の紹介といった形で食育を行うことで、子どもたちは食材そのものに対する関心を持てるようになるかもしれません。
たとえば、九州市立大学地域共生教育センターでは、地域の耕作放棄地を活用して栽培された食材を学生が調理し、子ども食堂に食事を提供しています。食事の前に子どもたちと「料理に使われている野菜当てゲーム」を行うなど、工夫しながら食育につなげているそうです。
参考:北九州市立大学 地域共生教育センター『食』から学ぼうプロジェクト
子ども食堂の運営に必要な3つのステップ
「コロナ貧困」も話題になる中、子ども食堂の運営を検討している担当者もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、その運営方法を3つのステップに分けてご紹介します。
ステップ1:開催準備
◎運営計画の策定
子ども食堂に明確な定義は存在せず、運営には資格や届出は基本的に必要ありません。NPOや企業が主催する場合が多いですが、地域住民が集まって開催することもできます。ただし、運営方法によっては営業許可や届出が必要な場合もあるので、保健所には事前に相談しておきましょう。
継続的な支援を続けるため、運営計画はしっかりと立てておきましょう。日時、開催頻度、場所、対象者、定員規模、参加費を具体的に設定し、リハーサルも実施しておくと当日の運営がスムーズに進みます。
◎開催場所の選定
公民館や保育施設などの公共施設、定休日の飲食店などがよく利用されています。運営を長く継続するために、施設の利用料はできるだけ削減したいところ。安価または無料で利用でき、かつ衛生面に不安がない場所を探してみましょう。
◎支援者募集・運営費の確保
食材を提供してくれる人、資金を提供してくれる人、スタッフとして参加してくれる人など、運営を続けるにはさまざまな支援が必要になります。地域のネットワークを活用し、継続的に食事を提供できる体制を整えましょう。
民間団体や行政に助成金を申請するのも1つの手です。たとえば、東京都新宿区では「新宿区子ども未来基金」として、子どもの育ちを支援する活動に資金を助成しています。
行政による助成金についてはこちらを参照◎開催の告知
子ども食堂を本当に必要としている人たちに情報を届けるため、プロモーションは欠かせません。SNSやインターネットメディアを利用したり、地域の公共施設や教育機関にチラシを配置するのが効果的です。
ステップ2:食事の提供
◎参加者の人数確認
人数分の食事を用意してフードロスを防ぐため、参加者の数を数えておきます。看板を掲げたり、エプロンを着用するなどして、子どもや保護者が入りやすい環境を整えましょう。
◎食料の調達
地域の農家や食品会社、フードバンクなどと提携することで、継続的な食材の提供を受けることができます。食料だけでなく、食器や洗剤、ラップなどの消費財も一通り揃えておく必要があります。あわせて確認しましょう。
◎調理
子どもたちに安全な食事を提供するため、衛生管理には力を入れておく必要があります。運営の方法によっては、食品衛生法に基づく営業許可や届出が必要な場合もあるので、事前に保健所に相談しましょう。
ステップ3:「食育」の実施
◎調理に参加してもらう
実際に食材に触れ、調理することが最も効果的な食育と言えるかもしれません。衛生面に気をつけることはもちろん、包丁やガスコンロといった調理器具の扱いには十分に注意しながら実施しましょう。
◎食材や食事マナーの紹介
その日食べる食材はどこで採れたもので、どうやって運ばれてきたのか。身体にはどんな栄養素が必要なのか。生きる上で必要な基礎知識です。スライドショーやクイズ、ゲームなど、子どもたちが親しみやすい方法で紹介しましょう。
子ども食堂の現場をレポート!
開催概要
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子ども食堂の当日の様子
◎クイズ形式で食育を実施
参加者が全員集まったのを確認し、スライド資料を用いたクイズ形式で食育を実施しました。この日食べるカレーに入っている食材やルーツの紹介、手洗いの方法などをレクチャー。「カレー好きな人!」と問いかけると、子どもたち全員が手を挙げてくれました。
◎包丁を使った簡単な調理体験
玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモに触れ、包丁を使ってカットする簡単な調理体験。「包丁を握るのは初めて」という子もいる中、衛生面・安全面に注意を払って1人ずつ指導しました。
ご参加いただいた親御様にお話を伺いました。
ーーご家庭、学校で食育を意識することはありますか?
家では調理や皿洗いを手伝ってもらうことはありますね。娘が通う小学校では、給食をいただく前に食材が採れた場所を生徒間で共有する取り組みがあるみたいです。毎月配られる給食献立表には、旬の食材の紹介など食に関する知識が記載されています。
◎カレーを実食
献立は、カレーにエビフライ、サラダ、ヨーグルトです。子どもたちの間で好き嫌いが分かれないメニューをチョイスしました。食材はスーパーマーケットで購入。食費は1人当たり250円程度でした。保護者とスタッフの人数も考慮し、52人前を用意しました。
湘南わもっか保育園の川島さんに「食育」について伺いました。
ーー今後、保育園ではどのように食育を行っていきますか?
自然に囲まれた環境にある当園では、畑で野菜の栽培をしています。今後は、子どもたちと自分たちで育てた野菜を調理したり、魚の干物を作ったりする機会を設けたいですね。大切なのは、ここで得た知識や経験を周りに伝えていくことだと思います。
当日の天気は快晴。新型コロナウイルス感染症対策も兼ねて室内、室外に分かれて食事を取りました。エビフライは特に大人気で、みんな美味しそうに食べていたのが印象的でした。
ディップが提供する求人情報サービス「バイトル」の熊岡さんに、今回の企画についてお話を伺いました。
ーーどうして子ども食堂を開催しようと思ったのですか?
コロナの影響から求人の応募者が増加し、以前よりも人材が充足しているなかで、本当に働きたい時間に働けない人多いことがわかりました。
実際のバイトルユーザーが時間に余裕がない状況で働いている。
仕事の提供はできているが、それだけでいいのか。
もっと「社会を改善する存在」として、できることはないか。働いている人はもちろん、その家族や大切な人にも、できることを考えました。そんな中、給食事業を展開しているレパスト様とSDGsの取り組みの一環として、温かい食事を満足に食べられない子どもを助けたいと話し、「こども食堂」の企画提案に至りました。
ーー子ども食堂の運営を終えて、どうでしたか?また、今後の展望を教えてください。
子供たちの笑顔や「また楽しみにしてるね!」という声を聞けたことで、改めて自分の仕事の意義やお客様との関わりなどを見直すことができました!
今後の展望としては、これを継続的に行いながら、地域のつながりを強めつつ、こういった取り組みを波及させていきたいです。
おわりに
私たちは何を食べる必要があるのか。何のために食事を取っているのか。
子ども食堂の運営を微力ながら手伝い、日常生活で忘れてしまいがちな食の大切さを改めて認識しました。
子どもに地域コミュニティに関わる機会を提供する子ども食堂ですが、その運営にもやはり「人と人のつながり」が大切になってきます。
インターネットが普及し、今では世界中の人と自由に交流できるようになりました。そんな時代に生きているからこそ、地域に根ざした教育や支援に目を向けてみるのはいかがでしょうか。
SDGs CONNECT ニュース/イベントライター。立教大学でジャーナリズム論を主に研究。記事執筆の傍ら、陶芸制作にも取り組んでいる。好きな食べ物はメロン。