【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ】
2015年に国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、日本にも浸透し、知名度が高まっています。多くの人がSDGsだけではなくSDGsの17の目標についても知るようになりました。
この17の目標がいくつかのカテゴリーに分類されることをご存知ですか?SDGsの17の目標を個別に考えるだけではなく、カテゴリーごとに構造的に把握することで、社会課題が生じる仕組みも理解できるようになります。
今回は、SDGsの構造を読み解くために、ウェディングケーキモデルについて解説します。
見出し
SDGsウェディングケーキモデルとは
SDGsウェディングケーキモデルとは「SDGsの概念」を表す構造モデルのことです。
スウェーデンの首都・ストックホルムにあるレジリエンス研究所の所長ヨハン・ロックストローム博士によって考案されたもので、SDGs17の目標を大きく3階層に分け、それらの関わりをウェディングケーキの形に沿って表しています。
SDGsでは17の目標がそれぞれ個別なものであると捉えてしまう人は少なくありません。しかし、それぞれの課題は密接に繋がっており、SDGsで掲げられた社会課題を構造的に把握することが重要です。
SDGs ウェディングケーキモデルでは、「経済」「社会」「生物圏」の3階層にSDGsの目標が分類されており、経済は社会がなければなりたたず、社会は生物圏がなければ成り立たないことを理解することができます。
SDGsウェディングケーキモデル3つの階層
SDGsウェディングケーキモデルは以下の3段重ねのケーキを模して、SDGsのそれぞれの目標を構造的に配置しているモデルです。
『経済圏』(ECONOMY) 『社会圏』(SCIETY) 『生物圏』(BIOSPHERE) |
頂点には、SDGs の目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」が置かれています。
実はこの並び方にもそれぞれ意味があり、「経済」の発展が生活・教育などの社会条件の上に成り立ち、「社会」は「生物」の住む自然環境に支えられていることを示しているのです。
ここからはそれぞれの階層にどの目標が分類されるのかを詳しく見ていきましょう。
「生物圏」
SDGsウェディングケーキモデルの土台となる1段目は「生物圏」です。SDGs17の目標のうち、以下の4つが分類されます。
目標6.安全な水とトイレを世界中に 目標13.気候変動に具体的な対策を 目標14.海の豊かさを守ろう 目標15.陸の豊かさも守ろう |
「生物圏」を知るキーワードは「環境問題」と「気候変動」です。
私たちの生活の基盤となる自然環境は、人類の歴史の中で常に技術的・文化的発展の土台となってきました。
もし、ウェディングケーキの一段目がボロボロのスポンジでできていたとしたら、上のケーキの重さに耐えられずに倒れてしまうと思いませんか?
同様に「自然環境」の土台が崩れれば、その上に成り立つ「社会」「経済」は支えられません。
持続的な発展のためには土台となる「自然環境」を整えることが必要であるため、海や森林の抱える「環境問題」や、農作物等に影響する「気候変動」の課題を持つ目標がこの「生物圏」に分類されているのです。
「社会圏」
SDGsウェディングケーキモデルの中間層は「社会圏」です。SDGs17の目標のうち、以下の8つが分類されます。
目標1.貧困をなくそう 目標2.飢餓をゼロに 目標3.すべての人に健康と福祉を 目標4.質の高い教育をみんなに 目標5.ジェンダー平等を実現しよう 目標7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに 目標8.住み続けられるまちづくりを 目標16.平和と公正をすべての人に |
「社会圏」には、「人々の生活基盤となる社会環境の整備」を目指す目標が分類されています。
「社会圏」におけるキーワードは「健康」「差別・偏見」「教育」の3つです。
「生物圏」の土台が完璧に出来ていても、社会制度による人々の生活保障が疎かでは、それ以上、ケーキを重ねることはできません。
持続可能な社会生活に不可欠な「健康」の維持、ジェンダーや国籍などによる「差別・偏見」の撤廃、平等な「教育」の機会といった目標を達成することが、さらに上段にある人々の発展をもたらす「経済圏」の基盤になっていくのです。
「経済圏」
SDGsウェディングケーキモデルの最高層は「経済圏」です。SDGs17の目標のうち、以下の4つが分類されます。
目標8.働きがいも経済成長も 目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう 目標10.人や国の不平等をなくそう 目標12.つくる責任 つかう責任 |
「経済圏」のキーワードは「経済成長」「働きやすさ」「技術革新」です。
ここで掲げられる「経済成長」は、単なる利益を求めた成長ではありません。ウェディングケーキモデルの土台部分である自然環境や社会にマイナスの影響を与えないことが重要です。
また、社会課題を解決できるように「技術革新」による発展はもちろん、生活の質の向上には「働きやすさ」も重要です。
経済成長では、開発途上国にコストを転嫁したり、環境問題を後回しにすることで、発展が続いてきました。今後は、いかに持続的な経済の発展を成し遂げることができるのかを各社が考えることが重要です。
「社会圏」「生物圏」の達成なしに経済の発展はありません。
SDGsウェディングケーキモデルは3層がそれぞれの目標を達成して初めてバランスを保ち、持続可能な社会を作り上げることが可能になるのです。
SDGsモデルウェディングケーキの頂点を飾る「目標17」
SDGsウェディングケーキモデルの頂点に置かれるのは、目標.17 「パートナーシップで目標を達成しよう」です。
この目標17では全世界の人々が手を取り合い、パートナーシップを組んだ持続可能な社会の構築が目指されています。
目標17の指す「パートナーシップ」とは金銭的・技術的な国際協力のことです。主に、後発発展途上国への資金援助と技術促進のための目標を掲げています。
では、なぜ「パートナーシップで目標を達成しよう」という目標がSDGsウェディングケーキモデルの頂点に飾られているのでしょうか?
例え1つの国がSDGsの目標を全て達成したとしても、私たちは地球規模での課題を多く抱えています。「持続可能な地球」を目指すには、各国が手を取り合って協力することが必要です。その協力なしにSDGsが達成はありえないというメッセージから、SDGsの目標17が頂点に置かれています。
日本ではこの目標17に対し、多分野における都市間連携が行われています。今後は都市間に限らず、国境や文化を越えた、国家同士・企業間の連携が強く求められるでしょう。
私たちは「経済圏」「社会圏」「生物圏」のそれぞれの役割と関連性を適切に理解し、目標達成に向けて動き出す準備をする必要があるのではないでしょうか。
SDGs ウェディングケーキモデルから見る日本社会
2030年が期限とされているSDGsですが、日本の達成状況はどうなっているのでしょうか?
ウェディングケーキモデルから日本社会の”今”を見ていきましょう。
世界からみた日本のSDGsの達成度は17位という結果になっています。特に課題が残る項目として以下の目標が挙げられます。
目標.12「つくる責任 つかう責任」 目標.13「気候変動に具体的な対策を」 目標.14「海の豊かさを守ろう」 目標.15「陸の豊かさも守ろう」 目標.17「パートナーシップで目標を達成しよう」 |
これらの目標のうち13、14、15の目標が「生物圏」に分類されているものです。
経済的には非常に豊かである日本ですが、環境問題にはいまだに多くの課題が残っていると言えます。SDGsウェディングケーキモデルを支える土台を固めるためにも、早急な対応が求められるでしょう。
また、SDGsウェディングケーキモデルの頂点である目標17も達成度はよくありません。
達成度ランキングは156国中90位です。日本はODA(政府開発援助)を通じて、途上国への開発援助を行なっていますが、資金援助を必要とする国はいまだ多く残っているのが現状です。
SDGs ウェディングケーキモデルの活用法
SDGsウェディングケーキモデルが理解できれば、次に考えるべきはその活用方法です。
現代は「変化の激しい時代」だと言われています。その中で企業が注目するべきは持続可能な経営、すなわち「サスティナビリティ経営」です。
「サスティナビリティ経営」とは、企業が地球環境に対する影響に配慮しながら事業活動を行い、長期的な発展を目指す経営のことを表します。
SDGsウェディングケーキモデルは、企業の事業活動が各階層に与える悪影響の整理に利用可能です。まずは「生物圏」に与える悪影響を洗い出し、「社会圏」に与える影響を考察した上で、「適切な経済活動」とは何かを考えます。
このようにSDGsウェディングケーキモデルの段階ごとで課題を見つけられれば、サスティナビリティな経営戦略に必要な要素の発見に活用できるのです。近年注目が集まるESGにおいても、ウェデイングケーキモデルの考え方を反映させていくことが重要です。
▼ESGについて詳しくはこちら
ここまで見てきたように、SDGsウェディングケーキモデルは企業での「持続可能な社会」を構築するための課題の構造を可視化するものです。SDGs自体の理解と共に、課題と改善策の段階的整理を行う際にも、有効な手段になるでしょう。
最後に
今回はSDGsウェディングケーキモデルについて解説し、各目標の関連性を読み解いて行きました。
ウェディングケーキという形になることで、SDGsについてあまり知らない人でもイメージがしやすかったのではないでしょうか?
現在、社会が抱える課題にはさまざまな問題が絡み合っています。
それらをきちんと理解し、個々人が行動に移すことが大切です。
この記事を読んで、皆様がSDGsにさらなる興味を持っていただけたら幸いです。