【更新日:2021年6月2日 by 鈴木 智絵】
「ペットボトルを買う時に、『よぉし、環境破壊してやろう』と意気込んで買っている人はいないと思うんです。」
思わず吹き出しそうになるこの言葉には、私たちが普段、無自覚で環境破壊をしていることを伝える深いメッセージが込められている。
今回は、自身のコスメブランドShiinaで再生産可能な口紅を作りながら、日本全国の学校を回って講演活動をされている環境活動家の露木志奈さんを取材した。
「この世界は人々の選択からできている」「完全な人間はいないように、完全な商品はない」「ものを買うことが第一候補ではない」など、日々の行いに対してハッとさせられる言葉の数々や、実際に消費者として露木さんが行なっている取り組みの紹介を通して、環境活動家露木志奈の過去、現在、未来を探る。
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2001年、横浜生まれ。大好きな自然から興味を持ち、環境活動家へ
ーーまずはじめに、露木さんの自己紹介をお願いします。
露木:露木志奈と申します。2001年横浜生まれ、横浜中華街育ちです。15才まで日本の公立学校に通い、高校3年間を「世界一エコな学校」と言われるインドネシアの「Green School Bali(以下グリーンスクール)」で過ごしました。その後、環境活動家として活動しており、2018年にポーランドでのCOP24(気候変動枠組条約締約国会議) 、2019年にスペインのCOP25に参加しました。2019年の9月には慶應義塾大学環境情報学部に入学しました。現在は大学を休学し、気候変動の問題を中高生に伝えるため全国の学校で講演会を行なっています。また、サステナブルなコスメキットShiinaも作って販売しています。よろしくお願いします。
ーー露木さんが環境問題に興味を持った経緯を教えてください。
露木:私と環境問題の出会いは、グリーンスクールでした。グリーンスクールは、バリ島の豊かな自然の中で、環境問題についてや、英語を集中的に勉強する学校です。
初めて竹でできた魅力的な校舎を見たとき、直感で「行きたい!」と思いました。その時英語の成績が1だったことも忘れちゃうくらい、即決でしたね。もともと自然が好きで、英語を学びたかった私には最適な環境でした。
グリーンスクールに入ってから環境について興味を持つようになりました。
ーーもともと自然は身近だったんですか?
露木:実家は中華街にあるのでかなり都会なのですが、サバイバル系の幼稚園に通っていたので、その頃から自然は好きでした。小学4年生と5年生の時も、NPO法人グリーンウッド自然体験教育センターが主催している「暮らしの学校 だいだらぼっち」に山村留学しました。長野県の泰阜村という、長野県民にもあまり知られていない村で、無農薬の田んぼと畑で農作業をしたり、イノシシをさばいたり、五右衛門風呂を火から起こしてお湯を沸かしたりしていましたね。とても楽しかったです。
ーーグリーンスクール入学当初から環境活動をしたいと思っていたのですか?
露木:いえ、入学時は環境活動をするつもりは全くありませんでした。そもそも環境問題というものについて知り始めたのは、グリーンスクールに行ってからです。授業で環境問題について知る中で、徐々に環境活動への思いが芽生えていきました。自然が大好きな私が、環境問題の原因の一部になってしまっていることを知った時は衝撃的でした。
ただ、同じ授業を受けていても、グリーンスクールの生徒全員が環境活動家になるわけではありません。環境への思いに気付いてからすぐに行動に移れたのは、私がそれまでの経験の中で自然に触れていて、自然が大好きだったからだと思います。その意味でも、私にはやはりグリーンスクールがすごく合っていたのだと思います。
個人の選択が、世界を変える。
ーー具体的に行動を起こそうと思ったきっかけはありましたか?
露木:日々、無意識にしている「選択」が世の中を創っていることを知った時です。
買うものや見るもの、選挙で選ぶ人など、なんとなくの選択が世の中を創っていることに気がつき、もし日々の選択に目を向けることができたら、全ての社会問題が解決できると思ったんです。
環境問題だけに限らず、貧困、難民、ダイアモンド戦争など、世の中にあるさまざまな問題の解決に繋がるのが選択だと思います。ダイアモンド戦争は、みんなが美しいと思うダイアモンドを買うことによって起きてしまっています。みんながスマートフォンを買うことによって、その中に入っている一部の部品を探すために子供たちが銃を持ち、それによって腕を無くしてしまったり、ずっと貧困の中にいなくてはならない状況になっているんです。
世の中で一番権力を持っているのは消費者ですし、消費者がお金を払ったり、選んだりしなければ政治も会社も含めて、世の中全体が回りません。それだけ消費者の選択は大きな力を持っています。
ーー日々の行いから社会が変わっていくのですね。
露木:そうですね。グリーンスクールの卒業プレゼンも、”Consumers choices change earth” (消費者の選択が世界を変える)という題名でした。
社会問題を解決するというと、そのために人生を捧げて行動することをイメージするかもしれませんが、決してそんなことはありません。
卒業してから1年半くらい経ちましたが、学べば学ぶほど、解決策は一人ひとりの選択だと実感します。グリーンスクール時代の気づきが今の講演会の軸になっています。
世界を変える第一歩は、知らないことを知ること、ただそれだけ。
ーー講演会で生徒たちとの対話の中で思う、10代の環境問題についての認知の高さはどれくらいですか?
露木:環境に関心を持って下さっている学生さんは多いです。おそらく、自分たちの肌で環境問題を感じているからだと思います。
この新型コロナウイルスの感染拡大もそうですし、短い人生の中でも、私たちは色々な自然災害を経験しています。学生たちは気候変動があるという前提で世の中を見ているんです。
私の講演を聞いていても思い当たる節があったり、想像しやすかったりするのだと思います。気候変動の存在を知らずに生活してきた時間が長い大人の方より、10代の方が比較的関心が高く感じられるのはそのせいかなと思います。
ーー関心が高ければ、それに対して行動している人も多いのでしょうか。
露木:行動に起こしている人はまだ少ないですね。その原因は、知らないことが全てだと思います。
便利なペットボトルで飲み物を飲むことによって、自分の体の中にマイクロプラスチックが入っていくことを知らなかったら、買い続けると思います。
でももしそのことを知っていたら、なるべく買わないようにはしますよね。ペットボトルを買うときに、よし環境破壊してやろうと思って買っている人はいませんから。
環境のための選択に踏み出せるかどうかは知っているか知らないかの小さな差だと思います。
ーー露木さんが消費者として実際にしている「選択」を教えてください。
露木:まず、私の家は化石燃料から作られた電力ではなく、自然エネルギーからできた電力を使っています。これは一人ひとりできるインパクトのある選択です。
また、私はお肉は食べません。ペスカタリアンという、魚と乳製品は食べて、お肉だけ食べないスタイルです。お肉の製造過程で発生する家畜から発生するガスは、飛行機よりも二酸化炭素が多いのとびっくりする人が多いですが、健康面的にも、食べないようにしています。他にも、カフェはビーガンカフェにしか行きません。エシカル面に配慮しているところにしかお金を出したくないからです。
ーー食材の選択でも環境問題の改善に繋がるのですね。
露木:はい。また、私は基本的にものを買いません。ものを買う時は、とりあえずフリマアプリで探します。そのアプリで見つからなかったら、人からもらったり、代用できるものを探したりします。代用できるものを探すことって結構楽しいですよ。
ーーなるほど、ものを買わないという「選択」もあるのですね。
露木:そうなんです。完璧な人間がいないように、完璧な商品はありません。ペットボトルからできている服と言っても、必ずどこかでエネルギーはかかっています。
3Rに順位があるのをご存知ですか。リデュース、リユースに次いで、リサイクルが1番最後になっているのは、それだけエネルギーを使うからなんですよね。環境の話をすると、みんな環境にいいものを買おうとするのですが、1番環境にいいことは、リデュース、つまりものを買わないことなんですよね。
ーー確かに、私たちはものを買うことに頼りすぎているのかもしれませんね。
露木:そうですね。ものを買うことが第一候補ではないということを講演で子供達に伝えています。知ってもらった上での選択は個人の自由だと思うし、強制する必要は無いと思うので、まずは知ってもらうことを大切にしています。
ものを求める同世代に届けたい、「依存させないコスメ」
ーー露木さんはコスメも作っていらっしゃいますが、コスメを作る上で気にかけていることはありますか?
露木:まず、パッケージに入っているものは全てプラスチック以外のものを使っています。パッケージのスペースを埋める梱包材もコーンスターチでできていて、燃やしてもダイオキシンが出ません。
また、私のコスメのコンセプトは「依存させないコスメ」なので、一度購入すると一生自分で口紅を作っていけるキットになっています。
口紅の作り方と今後材料を購入できる場所も全て公開していて、これからは自分で作ってください、という思いを込めて届けています。
ーー原材料から自分で集められるようになっているのですね。
露木:はい。口紅の容器は、一般的な直径12.1mmのものになっているので、あまり使っていない色の口紅の中をくり抜いて、自分で作った口紅を入れることができます。
再利用の方法もキットの動画の中で全てお伝えしているので、一度購入していただければ、それ以降買ってもらうものは本当にないです。
ーー思い入れも出てきますし、一生使い続けられますね。
露木:この口紅は、エシカル、ハッピー、ビーガンがコンセプトです。動物性のものや、動物実験をしている材料も一切使っていません。そういう意味で倫理的でもあります。
また、この口紅を選ぶことによって、私だけでなく、地球に良いことをしている人たちにみんなにお金が回ってハッピーになってほしいという思いが込められています。
立場にはこだわらず、時代にあった方法で伝え続けたい
ーー今大学を休学されて、講演会やコスメの販売をなさっていますが、今後のプラン、ビジョンというものはありますか?
露木:これがないんですよね(笑)というのも、もともと講演会は、中高生をメインに21万人に届けることを目標にしていました。3.5%の意識が変われば社会的な革命が起きやすいと言われており、中高生の総数の3.5%は21万人だからです。
しかし、最近は小学生や大学生にも講演することも出てきて、21万人という数字にこだわりがなくなりました。それからは「同世代」に絞って講演会を行なっていますが、10年後は同世代の年齢も変わりますし、性格も気分屋なので、講演を一生続けることはないと思います。
時代や自分の年齢やその時のやりたいことによって自分の強みも変わってくると思うので、環境について伝えるという大きな目標は掲げつつ、その時に合わせて手段は変化していきたいです。
ーー環境問題や、選択に意識を向けることの重要性について知ってもらうことを軸に、手段はその時々で変えていくということですね。
露木:はい。コスメキットも環境について考えてもらう1つの手段ですね。スライムみたいに、その時の状況に合わせて形がすぐに変化できるような心の柔軟性を持っていたいです。
まとめ
張りのある声、凛々しい視線、ユーモアたっぷりのトーク。パソコンの画面ごしでも彼女は開始2秒で我々を魅了した。なぜここまで明るく、未来に向けた行動を起こし続けられるのか、その答えは「定期的なエネルギーチャージはしているけれど、講演は私のやりたいことで、好きなことだから」だそうだ。
環境活動と聞くと少し身構えてしまうが、私たちの生活の中にある1つ1つ選択も立派な環境活動なのだとお話を聞いていて実感した。気負うことはなく、かと言って目をそらすこともせず、知るべきことを知り、納得した上での選択をすることが重要だ。カジュアルで気取らない露木さんは、環境活動と私たちの橋渡し役になりそうだ。