【更新日:2021年9月15日 by 三浦莉奈】
株式会社ユーグレナ(以下、ユーグレナ社)は、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を活用した機能性食品や化粧品等の製造・販売、バイオ燃料の生産に向けた研究を行っていることで有名な企業です。
ユーグレナは植物と動物どちらの栄養素も含んでおり、微生物の中でもトップクラスの栄養価を誇ります。近年の研究により、ユーグレナは59種類の栄養素をバランスよく含んでいることも判明し、栄養問題などの社会課題の解決に大きくつながると考えられています。
また、ユーグレナ社は2020年に企業理念を刷新。サステナブルな事業を優先的に取り込み、実践するためにユーグレナ・フィロソフィーとして‘Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)’を掲げました。
このページでは、ユーグレナ社の事業内容や製品・サービスをはじめ、SDGs戦略や活動まで、幅広く紹介していきます。
見出し
ユーグレナ社のビジョン/事業
ユーグレナ社の概要
2005年に設立されたユーグレナ社は、食料不足や栄養失調の問題を解決すべく、誰にもできないと考えられていた微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術を確立し、商品開発を行っています。
創業者の出雲氏が起業を志したきっかけは、バングラデシュで目の当たりにした栄養失調に苦しむ子どもたちを助けたいと思ったことでした。バングラデシュの子どもたちは毎日食べる米や豆などの主食があるにもかかわらず、野菜や肉・魚など炭水化物以外の栄養素が圧倒的に不足していたため、免疫力が低下したり、体の発達に支障が出たりしていたのです。そこで、日本に戻り、なにか豊富な栄養素が一つに詰まった素材はないかと探し求めます。そして、ユーグレナと出合いました。ユーグレナは微細藻類であり、トップクラスの栄養価を誇ると知り、ユーグレナを用いた食品をつくろう、と一念発起しました。
しかし、開発を始めた当時、ユーグレナの大量培養の技術を確立させることは不可能と言われていました。なぜなら、食物連鎖の最下層に位置するユーグレナは、その栄養価の高さゆえに、培養している間に他の微生物や昆虫が侵入し、食べ尽くされてしまう可能性が高いからです。
そこで、ユーグレナ社では「異物を混入させない環境」を作るのではなく、「ユーグレナしか生きられないような培養環境」を目指すという発想の転換をしました。
この独自の発想が功を奏し、大量培養の研究を始めて3年後、会社の設立から4ヶ月後に、世界初のユーグレナの食用屋外大量培養技術を確立しました。
この技術の開発と会社の設立により、植物と動物、両方の性質を持つユーグレナが食品に応用され、私たちが摂取できる環境ができました。
設立年 | 2005年 |
資本金 | 73億1,814万円 |
事業 |
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【引用】https://www.euglena.jp/companyinfo/company/
ユーグレナ社の主な事業
ユーグレナ社の主な事業は、①ヘルスケア事業②ユーグレナ等の微細藻類の研究開発、生産事業③エネルギー・環境事業に分けられます。
1. ヘルスケア事業
ヘルスケア事業においては、ユーグレナのエキスを用いたビューティーケア製品の開発や、一人ひとりにあった健康的な生活を提案する遺伝子解析サービス「ユーグレナ・マイヘルス」など幅広い取り組みを展開しています。
【引用】https://www.euglena.jp/businessrd/healthcare/
取り組み事例:ユーグレナを素材にした化粧品の販売
ユーグレナ社では2005年からユーグレナを化粧品素材として活用するための研究を行っていました。2008年には、ユーグレナから抽出したエキス(加水分解ユーグレナエキス『リジューナ』)が肌のターンオーバーを促す可能性があることが判明しました。
そして2014年に、ユーグレナ社初の化粧品ブランド『B.C.A.D. (ビー・シー・エー・ディー)』が誕生しました。この製品の名前の由来は、紀元前をあらわす『B.C.』と紀元後をあらわす『A.D.』にちなんでいます。はるか5億年以上前の紀元前から存在し、地球の生命の源となってきたユーグレナを、現代の最先端テクノロジーでつなぐ商品として命名されました。
2. ユーグレナ等の微細藻類の研究開発、生産事業
ユーグレナ社はサステナビリティを軸にバイオテクノロジーを推し進める、というテーマで微細藻類ユーグレナやクロレラ、カラハリスイカ等の研究開発を行っています。基礎研究から機能性研究、バイオ燃料の技術開発研究など、幅広い研究に取り組んでいます。
取り組み事例:ユーグレナを活用した飼料の生産
微細藻類の中でもトップクラスの栄養価を持つユーグレナを使って農業や畜産業の助けになるような飼料や肥料がつくりたいという研究員の思いから、ユーグレナの飼料開発が行われました。
さまざまな調査の結果、ブランド家畜である比内地鶏にユーグレナ入りの飼料を与えて、研究開発をすることを決断。畜産農家の方々の豊富な知見や気づきも取り入れ、試行錯誤した結果、ユーグレナ入りの飼料で育てると、比内地鶏の特徴である脂の黄色味が強くなることや、肉質のうま味が強くなることが分かりました。
ユーグレナは、家畜の飼料としても優秀な栄養素として認知され始めています。
3. エネルギー・環境事業
エネルギー・環境事業においては、地球温暖化に配慮した取り組みを行っています。具体的には、ユーグレナから抽出した油脂と使用済み食用油を組み合わせてバイオ燃料をつくる取り組みをしています。
同時に、このバイオ燃料を製造・使用するサポーターを日本中に広げる活動もしています。バイオ燃料が、化石燃料の代替エネルギーとして、社会で当たり前に使用されることを目標としています。
日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを2018年10月末に、ユーグレナバイオディーゼル燃料を2020年3月に完成させ、乗合バスや配送車、消防車、そして船に供給をスタートしています。
また、ユーグレナ社は、バイオ燃料の生産量目標を2025年には25万kℓに設定し、商業用プラントの設置をめざしています。25万kℓは2020年の生産量2000倍の値です。
取り組み事例:日本をバイオ燃料先進国に 『GREEN OIL JAPAN』宣言
『GREEN OIL JAPAN(グリーンオイルジャパン)』宣言は、ユーグレナ社が主導する日本をバイオ燃料先進国にすることを目指す活動です。
日本においては、実証プラントで製造したユーグレナバイオ燃料を陸・海・空における移動体に導入すること、2030年までにユーグレナバイオ燃料を製造・使用するサポーターを日本中に広げることで、バイオ燃料事業を産業として確立することを目標に掲げています。
『GREEN OIL JAPAN』宣言に賛同し、ユーグレナバイオ燃料の利用や原料の供給、ユーグレナバイオ燃料の普及支援などを実施、普及する協力団体・企業は、現在30を超えています。
【引用】https://www.euglena.jp/businessrd/energy/
ユーグレナ社の経営理念
ユーグレナ社は経営理念・企業ビジョン・スローガンを無くし、ユーグレナ・フィロソフィーとして”Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)”を掲げました。
「ユーグレナ・フィロソフィー」に統一した理由は、さまざまな社会の変化を受けても、変わることのないシンプルな目標を掲げることでよりサステナビリティを実現するためです。
“Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)”とはユーグレナグループの全員が自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法であると考えています。
この言葉には「未来志向でずっと続けていくこと」「具体的に考え、行動している状態」という2つの理想が込められています。
ユーグレナ社は「ミドリムシ」の会社から”Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)”の会社へアップデートするために、サステナビリティを第一優先に事業を展開しています。
【引用】https://www.euglena.jp/companyinfo/vision/
ユーグレナ社とSDGs
直接関係するSDGs
ユーグレナ社のSDGs戦略
“Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)”を常に実践できる企業であるために、ユーグレナ社自身が重要課題を特定し、ESGに対応した経営基盤の構築における課題に目を向けています。
ユーグレナ社の幅広い事業を通したサステナブルな活動はSDGs目標達成への挑戦だと言えます。
また、持続的な事業活動を支えるESG経営を通じて重要課題を克服し、持続可能な社会づくりに貢献することに尽力しています。
環境、社会、ガバナンスの3つの課題にそれぞれ対応するために、目標や指針が設定されています。
ユーグレナ社のSDGsの取り組み
ユーグレナ社は、事業の一つひとつがSDGsに大きく寄与しています。ここでは、上述の事業以外にもSDGsの達成に向けたユーグレナ社の取り組みを一部ご紹介します。
取り組み事例①:バングラデシュの栄養問題を解決する取り組み
ユーグレナ社は創業のきっかけとなったバングラデシュでの活動をすすめています。バングラデシュはアジアの最貧国の1つ。栄養問題は深刻な課題であると考えています。
この課題を解決するために、「ユーグレナGENKIプログラム」というプロジェクトを始めました。ユーグレナグループの売上の一部をプログラムの活動に充て、バングラデシュの子どもたちの栄養不足を解消するための取り組みを行っています。
【引用】https://www.euglena.jp/times/archives/14323
取り組み事例②:生涯の健康を見据えたサービス
健康とは一時の状態ではなく、生涯続くものでなければならないとユーグレナ社は考えます。
世界中で人間の寿命は延伸傾向にありますが、健康寿命との乖離は社会的課題となっています。
ユーグレナ社は健康寿命の延伸に寄与するために、ユーグレナの持つ栄養素が人体にどのように反応するのかヒト臨床試験を行いました。
臨床試験の結果、健康寿命を支える複数の新たな発見が得られました。具体的には以下のような結果です。
- 脳の神経細胞の増加に不可欠なたんぱく質である脳由来神経栄養因子の上昇。
- 脳からの指令で身体が動く速度(認知機能速度・運動速度)の向上。
- 心の健康スコアの改善。
5億年前から存在している、微細藻類ユーグレナにはまだまだ知られていない可能性がまだ秘められていることがわかります。
取り組み事例③:カーボンニュートラルな社会をつくるために
CO2排出量の増大は世界中で深刻な問題となっています。
交通ツールが発達し、特に航空業界において化石燃料の代わりになる低炭素燃料のニーズが高まっています。
地球温暖化対策のためにも燃料のバイオ化は必須だとされ、特にバイオジェット燃料市場は拡大されると予測されています。
これらのニーズに応えるためにユーグレナ社はユーグレナが貢献できるのではと考えています。成長時にユーグレナは光合成をし、CO2を吸収します。そんなユーグレナからバイオ燃料を製造すれば、カーボンニュートラルを実現できると考えました。
また、ユーグレナはその生産でも利点があります。農作物が育ちにくい土地でも、水などの資源があればバイオ燃料の原料であるユーグレナを生産することができます。現在は、ユーグレナの大規模生産を効率的に行うため、海外でユーグレナの大量培養実証を開始しています。
まとめ
わたしたちはお腹が空いたら食べるということが当たり前にできています。栄養失調で亡くなるということもほとんどありません。しかし、まだまだ世界では栄養のバランスは課題であり、また人口増加の中で今のような安心で安全な生活を続けるために限りある食料源を工夫して使わなければなりません。
持続可能な社会づくりの鍵となるであろう次世代の食料であり燃料の原料でもあるユーグレナの研究に目が離せません。日本の『ユーグレナ』が世界へと広がっていくことが楽しみです。