【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ】
世界には水や電気といった、私たちの生活に必要不可欠なものにアクセスできない人が多く存在します。また、建物や道路など住まいを支える技術が十分に備わっていない地域もたくさんあり、貧困問題などにつながります。
この記事を読んでいる読者の皆さまは、インターネットが当たり前に使える環境にいると思います。しかし世界には、3Gも繋がらない地域に住む人も多く、世界から孤立した存在になっています。私たちがいま使っているインターネットも、こんなに普及したのは技術革新が劇的に進んだおかげです。IT化が進むいま、そもそもの生活基盤ができていないと、基盤ができている地域との格差がどんどん広がってしまいます。
ここでは、目標9 「産業と技術革新の基盤をつくろう」を徹底解説していきます。
見出し
SDGsとは
SDGsは“Sustainable Development Goals”の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。
SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。
SDGs CONNECTでは、SDGsの各目標ごとに解説記事を公開しています。
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目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とは
目標9は「強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る」ことを目的とし、インフラ・産業・イノベーションの3つの要素から成り立っています。この目標は、金融、テクノロジー、技術の支援、研究、情報通信技術へのアクセスを良くすることによって達成されます。
強靱なインフラを整備することとは、壊れにくい建物を作ることではなく、災害で壊れてしまっても復興の早いシステムを確立することです。自然災害の多い地域ほど立て直る力をつけることが重要となってきます。
また、持続可能な産業化を推進したり、技術革新の拡大を図ることは、産業創出の機会に繋がります。目標9に取り組むことで、労働機会が増えて目標8「働きがいも 経済成長も」の解決策になったり、IT化によって世界中とつながり、パートナーシップを実現する目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に直結します。
3つの要素の説明
①インフラ整備
人間の生活を支える社会基盤をつくることです。インフラには、道路やビルなどの建造物から、水道、電力、インターネットなどの日常生活を過ごすための必需品も含まれます。十分に整備されていない場合、周りの国や人々との情報格差が生まれたり、生活水準が下がり衛生面に支障が出たりと、私たちの生活に直接影響を及ぼします。
②持続可能な産業化
事業を存続させるために研究開発を繰り返し、将来を見据えた産業づくりを手がけることです。新しい産業を生み出していくことで雇用問題の解決に繋がったり、再生エネルギーを使用することで省エネに貢献するなど、長期的なメリットの実現を目標としています。
③技術革新の拡大
最先端技術を取り入れることによって事業を拡大させ、人々が暮らしやすい社会をつくることです。AIやIoTを活用することで、業務の効率化をはじめ、異業種との連携や新たな産業が生み出されます。さらに、今まで人間が行なってきた業務をロボットが代わることで、人間は事業の質の向上に注力することができます。
インフラ整備が行われることで生活基盤が確立され、産業の発展やテクノロジーの導入、他の目標への達成に力を入れることができます。これら3つの要素は相互に関わりが深く、重要な課題である一方で、達成されないと国同士の格差を生む大きな原因ともなります。
目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のターゲット
「1-1」のように数字で示されるものは、それぞれの項目の達成目標を示しています。
「1-a」のようにアルファベットで示されるものは、実現のための方法を示しています。
9.1 | 質が高く信頼できる持続可能かつレジリエントな地域・越境インフラなどのインフラを開発し、すべての人々の安価なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援する。 |
9.2 | 包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030年までに各国の状況に応じて雇用およびGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる。 |
9.3 | 特に開発途上国における小規模の製造業その他の企業の、安価な資金貸付などの金融サービスやバリューチェーンおよび市場への統合へのアクセスを拡大する。 |
9.4 | 2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術および環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。すべての国々は各国の能力に応じた取り組みを行う。 |
9.5 | 2030年までにイノベーションを促進させることや100万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとするすべての国々の産業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる。 |
9.a | アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国および小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術的支援の強化を通じて、開発途上国における持続可能かつレジリエントなインフラ開発を促進させる。 |
9.b | 産業の多様化や商品への付加価値創造などに資する政策環境の確保などを通じて、開発途上国の国内における技術開発、研究およびイノベーションを支援する。 |
9.c | 後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020年までに普遍的かつ安価なインターネット・アクセスを提供できるよう図る。 |
(引用:目標9 レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る | SDGs)
ターゲットにある、先進国、開発途上国、後発開発途上国の定義は以下の通りです。
先進国とは、OECD加盟国の36ヶ国を指し、それ以外を発展途上国として位置付けています。発展途上国は、高中所得国と低所得国に分けられます。
低所得国のうち国連開発計画委員会の定める基準を満たした国は、最貧国と呼ばれる後発途上国(LDC)として、ODAの援助受取リストに登録されます。主にサハラ以南地域やアフリカ諸国に分布されています。
(参照:後発開発途上国(LDC:Least Developed Country))
世界の現状
目標9の3つの要素において、先進国と開発途上国の現状に大きく差があります。情報格差や生活レベルに差が出てくると、世界が一丸となって取り組まなければいけない地球温暖化対策など、他の問題の達成へも影響してきます。そのため、先進国と開発途上国が足並みを揃えることが大切です。
強靭なインフラ整備
①インターネットアクセス率
2020年度では、世界の約85%の地域で4Gが使えるようになっており、97%の人がモバイルブロードバンド・ネットワークの通じる環境に住んでいます。これは2015年と比較すると2倍以上の伸び率でした。しかし、後発開発途上国と内陸開発途上国の人口の25%と、小島嶼開発途上国の人口の15%が未だモバイル・ブロードバンド・ネットワークにアクセスができず、ターゲット9.cの達成に遅れをとっています。また、全世界では54%の人しかインターネットにアクセスができず、後発開発途上国では19%しかアクセスができていません。
インターネットにアクセスが可能な割合は、都心部では72%、農村地域では37%と、2倍の差があります。コンピュータからのネットアクセス率は、都心部で63%、農村部で25%と、大きく差が広がりました。先進国では、数値に大きな差はなかったものの、開発途上国では都心部と農村部の差が明確で、全体の数値自体も先進国と比べ低くなっています。
*データの右側がインターネットアクセス率、左側がコンピュータからのアクセス率。どちらも棒グラフの色の薄い方が都心部、濃い方が農村部。
(参照:INDUSTRY, INNOVATION AND INFRASTRUCTURE: WHY IT MATTERS)
②建造物のインフラ整備
建物などのインフラに関しては、先進国の方が高い技術力を有し、災害に強いそして復興力の高い建造物を建築している傾向があります。しかし、建物の老朽化が問題視されているため、メンテナンスに力を入れる必要があります。一方、開発途上国では、十分な資材を調達できなかったり、技術力の低さによってインフラが整っていない地域が見受けられます。また、建物を作る基盤が整っていない地域だと、自然災害によるダメージを受けると壊れやすく、立ち直る力が弱いため、早急に技術強化しなければなりません。
先進国と開発途上国とでは、インフラ需要ギャップが2040年までに15兆米ドルに達すると言われています。ただ強い建物を作るのではなく、災害に耐えうる強靭なインフラ整備技術を世界各国が持つことで、国の経済レベルや人々の生活レベル向上に繋がります。
持続可能な産業化
①製造業付加価値
産業が発展することはどの国においても重要です。製造業付加価値は、各国でどれほど産業化が進んでいるかの指標として使われます。近年では、高い関税や貿易摩擦によって、製造業付加価値が伸び悩んでいます。世界のGDPに対しての製造業付加価値は2017年で16.3%、2019年では2018年より成長率が1.5%しかありませんでした。後発開発途上国においては、2019年で12.4%、10年間で2.4%しか伸びなく、先進国との差が年々開いています。
②研究開発費
世界の研究開発費は2010年で1.4兆ドル、2017年では2.2兆ドルと大きく増額しています。研究には必然的に多大な費用がかかり、その国の技術力の伸びに影響するため、初期投資として多くの予算を使います。先進国では、GDPあたり2010年度は1.5%、2017年では1.7%であり、全体として伸び率が低いと言えます。しかし、開発途上国ではGDPあたり1%未満と、さらに低く、全世界で将来性のある研究分野を見極めて費用を費やす必要があります。
技術革新の拡大
①科学技術
中・高度科学技術を有する企業は2017年に全世界の産業の45%であり、先進国では49%をも占めています。その一方で、後発開発途上国では9%しか占めておらず、科学技術の分野でも差が生まれてしまっています。
②グローバル・イノベーション・インデックス
技術革新の度合いを測るための指標として、グローバル・イノベーション・インデックスがあります。1位は10年連続スイスで、スウェーデンやアメリカなど上位国に順位の変化はありません。スイスでは、国立大学の研究開発やIT化に注力していたり、医療分野とテクノロジーを掛け合わせたスタートアップが多く、私たち人間が持続的に健康に生きるために役立つ研究をしていると言えます。さらに、シンガポールが8位、フィリピンが2014年の100位から2020年50位まで上がったことなどを受け、アジアでのイノベーションの中心地が東にシフトしています。
(参照:GII 2020:グローバル・イノベーションに対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予期される影響、年間ランキングの上位にスイス、スウェーデン、米国、英国、オランダがランクイン)
日本の現状
日本は、先進国の中でも目標9の達成へ近づいている国の一つですが、技術革新やイノベーションにおいて課題が山積しています。
強靭なインフラ整備
トンネル、橋、道路の建築において世界トップレベルの建築技術を持つ日本は、世界にもその技術を発信しています。しかし、1970年代の高度経済成長期に建てられた数多くの建物は、現在建設から50年以上経過するものもあり、老朽化が心配されます。例えば、2023年には39%、2033年には63%もの道路橋が建設されて50年以上経つと推測されています。追いつかないインフラ整備問題には、深刻化する少子高齢化も要因の一つです。そのため、AIやIoTを駆使することで、人手不足の解消へと繋がり、安心して暮らせる街が実現します。
(参照:社会資本の老朽化の現状と将来 – インフラメンテナンス情報)
持続可能な産業化
GDPあたりの製造業付加価値は2019年で21.1%と、世界平均より高い数値となりました。しかし、毎年20%前後を行き来しているため、伸び率は低いと言えます。
(参照:UNIDO| SDGs| Japan)
研究開発費に着目すると、2019年度では19兆5757億円と前年比の0.3%増で過去最高額となりました。加えて、研究員の数も88万1000人と過去最多です。特許申請率は、中国、アメリカに次ぎ3位となっています。しかし、2000年代前半までは研究開発費と生産性が相関していたものの、2017年以降減少傾向にあります。この背景には、日本の研究者が既存の研究分野を深めて研究する傾向があることから、新しい分野での研究が少ないことが挙げられます。つまり、新規事業が少なく、それが世界と比べた起業家率の低さに影響しています。
(参照:日本でイノベーションが生まれなくなった真因 | リーダーシップ・教養・資格・スキル)
(参照:2020年(令和2年)科学技術研究調査結果)
(参照:世界の特許出願件数増加を中国が牽引 | 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報)
技術革新の拡大
2020年のグローバル・イノベーション・インデックスでは、16位という結果となりました。日本では、産業ロボットが製造業などで著しい発展を見せましたが、IoT技術の導入に国際的な遅れをとっています。平成30年度の年次経済財政報告では、2020年にはアメリカやドイツで70~80%のIoT導入率となる見込みですが、日本では40%に止まっています。しかし近年では、クラウドサービスを導入する企業が増加傾向にあるため、徐々に効率良く業務遂行できる体制が整ってきていると言えます。また、バックオフィスでのIT導入による省力化が労働時間の削減につながります。ただ、バックオフィスへのIT投資による生産性は明確に結びついていないため、現場での技術革新も必要となります。
世界の取り組み
先進国と開発途上国の差を埋めるために、様々な国際機関や企業が取り組みを行っています。
グローバル・インフラストラクチャー・ファシリティ(GIF)
グローバル・インフラストラクチャー・ファシリティは、先進国と開発途上国の間のインフラギャップを縮めるために、世界銀行グループが設立したプラットフォームです。機関投資家によって、投資や開発途上国においての雇用創出や貧困削減に向けてインフラを整えるプロジェクトを実施しています。開発途上国では年間1兆円ほどをインフラに当てているため、良いインフラ設備環境を持続的に保つためには、年間1兆円以上の追加投資が必要だと言われています。
(参照:世界銀行グループ、グローバル・インフラストラクチャー・ファシリティを設立)
(参照:グローバル・インフラストラクチャー・ファシリティー(GIF))
Watly
ハイテク技術により、一台のソーラーマシンから水、電気、インターネットを生み出すことを可能にしました。Watlyはドーム状の形をしており、太陽光の多いアフリカの各地に設置されています。ソーラーパネルによって発電されたバッテリーは、熱力学を利用し、汚水を浄化して1日5000リットルものきれいな水を提供できます。また、充電式のポータブルライトやインターネットまでもを使えるようにしたことで、その地の教育環境や生活に大きな変革をもたらしました。
(引用・参照:Watly)
タクシー配車サービスGrab
Grabは、シンガポールに本社を置き、東南アジアで使われている配車アプリです。東南アジア最大のオンライン・ツー・オフライン(=オンラインで客を引き寄せオフラインでサービスを提供する)モバイルプラットフォームだと言われています。Grabは、東南アジア特有の雇用問題、人身売買、男女格差などの課題を国際機関と連携しながら取り組んでいます。タクシーを使って人身売買の犠牲者らが移動することから、運転手側の教育やタクシーの走行安全性を高めるための制度を確立しました。新型コロナウイルスにより外出機会が減ったことで、配車目的だけでなく、宅配業にも力を入れ人々の足となるよう活動の幅を広げています。また、2018年には、マイクロソフトからの戦略投資を受けました。これにより、東南アジアのモビリティ業界においてモバイル決済などツールのオンライン化をはじめとした、IT化の積極的活用が促進されています。
(参照:Grab – Transport, Food Delivery & Payment Solutions)
(参照:Grabがマイクロソフトとの戦略的クラウド提携を強化、東南アジアでのデジタルサービスのイノベーションと普及を推進)
日本の取り組み
日本では、国内に向けた取り組みのみならず、世界にも技術を発信しています。
文部科学省
文部科学省は、大学等での実験・研究の実践サイクルを円滑にするための支援を行なっています。特に地域課題や科学技術の分野の発展に注力しています。例えば、2021年度は感染症分野の研究を、政府開発援助(ODA)と連携している地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)において公募申請し承認されることで研究資金を得ることができます。
他にも、開発途上国のニーズやグローバル課題の解決策を探り、社会実装に向けて共同研究を行なっています。そして、ビッグデータを活用し、地球規模でのデータ共有、国際問題の情報発信を手がけています。
(参照:STI for SDGs 文部科学省施策パッケージ)
自治体:秋田県仙北市
2018年にSDGs未来都市に選定された秋田県仙北市は、持続可能な都市づくりを実現するにあたって、若者を定住させ雇用機会の創出を目指しています。取り組み案として最新技術を取り入れた事業展開を図っています。農業分野にIoT技術を導入をすることで、低コストで効率よく作物の管理を可能にすることが一例として挙げられます。また、地域資源である温泉を産業創出の機会に活かし、滞在型の観光に力を入れています。事業創出や近未来技術の発展には、地方創生推進交付金を活用し、様々な取り組みができる体制を整えています。
(参照:仙北市 SDGs 未来都市計画 仙北市)
企業:トヨタ
大手自動車メーカーであるトヨタは、自動車の排気ガスが地球温暖化に影響することを受け、先進的に電気自動車の開発を行ない特許実施権を取得しました。環境問題は日本のみならず世界規模で取り組まなければならないため、電動車をより多くの地域で普及するため、車両電動化技術の特許を無償で共有しています。また、自動車の安全性を追求するために使われるバーチャル人体モデルTHUMSのデータも無償で共有し、全世界の誰でもアクセスができるようにしました。
自動車を作るだけでなく、根本的な人の移動を助けるためにヒューマノイドロボットの開発を手がけています。高齢化社会での介護に携わる人の代わりや、災害時の救急隊の代わりなどの場面でロボットが役立つでしょう。そして人は、ロボットの技術向上や、人材育成に集中することができます。
(参照:なぜトヨタ自動車はヒューマノイドロボットを開発するのか | コーポレート | グローバルニュースルーム)
さいごに
世界各国で目標9を達成することで、世界中の人々の生活レベルが向上され、より良い社会の形成に繋がります。インフラが整い、生活基盤が作られることで、他の目標へ取り組むことができたり、技術革新が進んでいくことによって、人間とAIが共存する社会が創造できます。
また、開発途上国が自立できるよう支援することが先進国の役目となります。そして将来的には、先進国と開発途上国の格差をなくし、相互で助け合うことを目標としています。私たちの生活は、周りと協働することで豊かになってきます。目標9に取り組む際は、単体ではなく、他の国や地域、事業分野との連携を心がけることが大切です。
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