【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ】
スーパーや学校、郵便局や駅など都市は私たちの生活に欠かせない基盤となっています。現在、世界の半分以上の人々が都市に暮らしていると言われ、快適なまちづくりの重要性が高まっている他、地方の過疎化が問題になるなど、まちづくりに工夫が求められています。
また、日本では2011年に発生した東日本地震による津波や2019年に発生した台風15号による洪水など、自然災害による甚大な被害が後をたたず、自然災害に強い持続可能なまちづくりも求められています。
この記事では、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」をテーマに、これから重要性がましていく街づくりについて解説していきます。
見出し
SDGsとは
SDGsは“Sustainable Development Goals”の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。
SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。
SDGs CONNECTでは、SDGsの各目標ごとに解説記事を公開しています。
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SDGs11「住み続けられるまちづくりを」とは?
まちづくりって何?
「まちづくり」には固定された定義はありません。新たに建物を建造するのではなく、建物や道路、施設、上下水道などのハード面、歴史や文化などのソフト面を保護したり、改善することで、さらに住みやすいまちにしていく活動全般を指すことが多いのが特徴です。
東京をはじめ国内では高度経済成長期を迎え、都市整備を進めてきました。日本は世界を代表する都市インフラを築いており、水道の普及率は97%以上※と高水準なだけでなく、遅延の少ない交通網や輸送網の発達など、人々が快適に過ごせるまちづくりを実践してきました。
一方で、まちに着目してみると、老朽化や過疎化問題など、さまざまな社会課題がまちづくりに起因しています。「まちづくり」というとどこか政府や地方自治体がトップダウンで行うものであると感じられやすいですが、これからのまちづくりでは、まちで生活する私たちが住みやすいと思えるように参画し、協働していくことが重要になっています。
(参考:厚生労働省:水道普及率の推移)
(参考:まちづくり活動の担い手のあり方について とりまとめ 【目次】 1. はじめに (1) 官・ハ)
「住み続けられるまちづくり」とは?
国連は、住み続けられるまちづくりについて「都市を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にすること」と定義しています。
今後、私たちのまちの環境は大きく変化していきます。代表的な変化が都市に暮らす人口の急増です。国際連合「世界の都市人口の展望」によると世界の都市圏の人口割合は年々増加傾向に有り、都市人口は2015年の約40億人から、2030年には50億人を超えると推定されています。
国内においても、東京の都市人口は、2025年まで世界第一位と推定されていて、日本の総人口の約3割が東京、千葉、神奈川、埼玉の東京圏に居住しており、日本において都市への人口集中は世界の中でも高くなっています。
人口の変化とともに、都市の交通網の混乱やエネルギー消費の問題、環境汚染なども懸念されている他、人口密度や立地条件によっては気候変動や自然災害の影響を受けやすい都市も多く、持続可能なまちづくり(=住み続けられるまちづくり)が求められています。
(参考:190218 WHY IT MATTERS_11_住み続けられるまちづくりはなぜ大切か+)
ターゲットを解説
国連は、ターゲットとして以下を掲げています。
11.1 | 2030年までに、すべての人々の、適切、安全かつ安価な住宅および基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。 |
11.2 | 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者、および高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。 |
11.3 | 2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、すべての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。 |
11.4 | 世界の文化遺産および自然遺産の保全・開発制限取り組みを強化する。 |
11.5 | 2030年までに、貧困層および脆弱な立場にある人々の保護に重点を置き、水害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。 |
11.6 | 2030年までに、大気質、自治体などによる廃棄物管理への特別な配慮などを通じて、都市部の一人当たり環境影響を軽減する。 |
11.7 | 2030年までに、女性・子ども、高齢者および障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。 |
11.a | 各国・地球規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部、および農村部間の良好なつながりを支援する。 |
11.b | 2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対するレジリエンスを目指す総合的政策および計画を導入・実施した都市および人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。 |
11.c | 財政および技術的支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用いた、持続可能かつレジリエントな建造物の整備を支援する。 |
世界の「まちづくり」の現状
世界で起きている「まちづくり」をめぐる問題について紹介していきます。
整備が進まないインフラ
まちづくりに関する大きな課題として深刻なのが、インフラの未整備問題です。
特に人間が生活する上で最も重要な水に関するインフラの未整備が問題になっています。各家庭に水を供給する上水道の整備だけでなく、工場から出る工業排水や家庭排水など下水道の整備が必要です、世界の生活排水の90%は未処理のまま流されているともいわれ、都市の衛生環境にも大きく影響しています。
特に、アフリカなど開発途上国の中には、水道インフラが整備されておらず、汚染された水を飲まざるを得ない地域が存在します。飲水が汚染されていると、感染症のリスクが高まりまり、感染症によって引き起こされる下痢などの症状は小さな子供たちにとっては死の脅威です。適切なまちづくりのために水のインフラ整備が喫緊の課題となっています。
また、さまざまな気象条件下でも利用できる全天候型の道路や、空港、港などの交通インフラ、電力やガスの供給網など、住み続けられるまちづくりのためのインフラ整備を進めていく必要があります。
(参考:Apiste| 水質汚染最大の原因は生活排水?現状や理由を紹介)
(参考:環境に配慮した社会インフラ基盤技術と東芝の取組み)
スラム街の拡大
世界各国の都市部にはスラム街が増えています。スラム街とは、まちが荒廃し、公共インフラが整っておらず、治安や衛生環境が悪化し、さまざまな課題を抱える居住地域を指します。
世界的に、多くの国々の都市部が急速な発展を遂げました。これに伴い、人々が都市に集まったことで、安定した収入を得られない人々が住居を見つけられず、多くのスラム街が形成されています。さらに、スラム街に住む人々の中には国籍がない人も多いため、政府からの援助が届きにくく、国際機関やNPO/NGO団体からの外部的な援助も必要となってきます。
2030年までに、スラム街の人口は20億人に達するとも言われ、スラム街の存在は世界的な問題になっています。
スラム街は世界中に存在し、南米やアジア、アフリカに多いと言われています。また、日本にもスラム街と呼べる地域が存在しており、他人事ではありません。
世界では、スラム街を強制的に撤去するなどの対策がとられますが、追い出された住民が別のスラム街を形成するなど悪循環が生まれてしまいます。今後は、スラム街に住む人々に積極的に就労支援をし、安定した収入を得られるようにサポートすることも重要です。
(参考:SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」のターゲットとなる「スラム」の実態とは)
自然災害によって移動し続けなければならない人々
自然災害によって国外へ移動しなければいけない人がいることをご存知でしょうか。
たとえば、太平洋の島国であるツバルは、地球温暖化の影響で、海面上昇による水没が懸念される国です。
もし本当に水没の危機が迫れば、このような国では全国民が国外への移動を強いられることになります。
また、干ばつが悪化するソマリアでは、アルシャバブ(ソマリア国内の武装勢力)が関与する暴力も伴い、数千人が国内で避難を強いられたり、またはエチオピアに逃れています。
このように、近年の著しい気候変動により、多くの人々が生まれ育った街を捨てて逃げざるを得ない状況に陥っています。また、逃げた先の地でも住みやすい環境を手に入れられるかどうかは保証されていません。つまり、住みやすいまちづくりは、今私たちが住んでいる場所が住み心地がいいか悪いかではなく、地球全体で取り組まなければならない重要なテーマなのです。
(参考:第19号 難民と気候変動)
(参考:気候変動と避難|国連UNHCR協会)
日本の現状
東京、名古屋、大阪の人口増加
前述の通り、日本でも都市部への人口の集中が加速しています。平成30年人口動態調査によると、東京・名古屋・大阪といった三大都市に全国人口の51.98%に当たる6,629万2,085人が居住しています。
都市部には大学が集中しているため、学生が集まり、そのまま都市部の企業に就職してしまうケースや所得の増加を求めた移住、商業施設や交通機関などの利便性の高さなどが理由として挙げられます。
都市部への人口増加により国内で問題になっているのが、地方の過疎化です。過疎化が進む地域では、社会インフラの管理が行き届かなくなったり、交通網が衰退するなど、大きく利便性が低下します。高齢者が残された地域では交通網の衰退により、大きく移動に制限がかかり住み続けることが難しくなってしまいます。
また地方で農業の担い手が減少すると、国内の食料自給率が低下してしまうなど、都市への人口集中はさまざまな問題を巻き起こします。
(参考:gooddo| 日本の都市化問題とは?現状やSDGsの目標達成に向けてできること)
高齢者の増加によるまちづくりの変革の必要性
近年では「少子高齢化」が日本を代表する社会問題なっています。高齢者の増加は、まちづくりに多大な影響を与えます。
国土交通省のデータによると、首都圏の増加傾向にあった人口が、近年、減少に転じており、今後は人口減少の時代が続いていくと予想されます。しかしながら、人口減少に併行して高齢者の割合は増加しており、2040年までに3人に1人が高齢者になると言われています。
高齢者の増加は医療の発展によるものであり、決してマイナスな意味ではありません。一方で増大する社会保障費、高齢者施設や介護人材の不足など、増加した高齢者に対する公共サービスを十分に提供できていない現状があります。
そのため、年齢による人々の生活スタイルの変化に対応したまちづくりが必要不可欠です。
例えば、医療施設の拡大や、高齢者向けの施設がさらに必要です。さらに高齢者が暮らしやすいバリアフリーなデザインや、制度の整備が求められています。
(参考:1 高齢化社会に対応したまちづくり・ 都市機能の確保)
ユニバーサルデザイン
都市部の人口集中、地方の過疎化などさまざまな問題がある日本ですが、世界でも有数の美しいまちづくりを実践している国です。特に推進されているのが都市のユニバーサルデザイン化です。
ユニバーサルデザインとは文化・言語・性別・年齢・職種・経済状況など多様な背景を持つ人々が誰でも使えることを目指した建築、製品、情報などの設計のことであり、それを実現するためのプロセスです。1980年に、建築家でもあるロナルド・メイスによって提唱されました。
私たちの身の回りにあるユニバーサルデザインの例は、点字ブロックです。日本では、2016年時点で、76.9%の鉄道駅に点字ブロックが導入されているという報告がされており、これは世界的にも高い水準となっています。
高齢者だけでなく、多様性を尊重したまちづくりが今後も求められます。
(参考:資料3 ユニバーサルデザイン化の推進について(PDF形式:2.8MB))
(参考:ユニバーサルデザインとは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン)
(参考:全国の点字ブロックの設置率 76.9%)
世界の取り組み
これらの問題を踏まえて、実際に世界で行われている取り組みについて触れていきたいと思います。2021年現在、世界各国ではみなさんが思い描いているよりも多く、そして大規模な取り組みが行われています。大きな理由として、SDGsは2030年までの達成目標となっていることが挙げられます。
代表的な例として、世界でもSDGsの達成に特に力を入れているスイスやデンマークが挙げられます。
政府・自治体
①スイス・ヘルシンキ
スイスの首都ヘルシンキの観光情報を紹介するWebサイトには、「サスティナビリティ」に焦点を当てた情報を紹介するページが設けられています。このページを訪れた市民や観光客は、どの施設がサスティナビリティの基準を満たしているのか知ったり、ヘルシンキでのサスティナブルな1日の過ごし方についてまで情報を得ることが可能です。
②デンマーク
デンマークで2023年の完成を目指し建設が進んでいる「UN17 Village」は未来型都市といっても過言ではありません。
なんとビレッジ内で利用されるエネルギーは、100%再生可能エネルギー。屋上にはソーラーパネルが設置され、自家発電が可能となっています。
(参考:SDGsへの世界の取り組み方は?ランキング上位国の取り組み事例を紹介)
いかがでしょうか?サスティナブルな一日を提供するスイスや、ドラえもんに出てきそうなデンマークの取り組みはとても現代的で、SDGs達成に向けた熱意を感じます。
企業
ドイツの自動車メーカーであるBMWでは、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」を達成目標として、大都市の交通を「クルマ」にあわせた環境から、「ヒト」にあわせた環境に作り変えるため、電気自動車のカーシェアリングの整備や電力補給場所の確保をしています。つまり、環境に配慮しながら車と人が持続的に共生できる社会を目指しています。
(参考: 【SDGs 事例】国内外の企業による活動や取り組みまとめ)
日本の取り組み
政府
日本政府はSDGsアクションプラン2021の中で、目標11に対するアプローチとして
世界や日本での自然災害を例に出し、「 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備」を挙げています。
日本は地震をはじめとした自然災害の多い国として、減災・防災を基本とした取り組みを行い世界に発信しています。
一方、東京都板橋区の高島平団地では、既存の住棟に分散している空き部屋を活用し、分散型のサービス付き高齢者向け住宅として改修、運営を行うとともに、団地内に、サービス拠点施設として、地域包括支援センター、訪問看護ステーション、在宅ケアセンター(居宅介護支援事業所)、療養相談室(在宅医療・介護連携支援窓口)の機能を設置し、これら諸機能の連携により医療・介護のワンストップサービスの提供を実現しています。
また、「SDGs未来都市」をご存知でしょうか?
「SDGs未来都市」は地方創生につながる「自治体SDGs」として、地域のステークホルダーと連携し、SDGs達成に向けて戦略的に取り組んでいる地域・都市が選定されています。選定の基準として設けられているのが、経済、社会、環境の3側面における価値創出です。これら3つの価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い都市・地域が認証を受けています。
自治体におけるSDGsの達成に向けた活動は、地方創生のために重要な取り組みとされ、官民の連携創出を支援することを推進するために、地方創生SDGs官民連携プラットフォームなども作られています。
そのほかにも、一極集中ではなく、地域それぞれの良さを生かした持続可能な取り組みを推進する認定や支援が進められています。
(参考:SDGsニュース 「SDGs未来都市」とは?1分でわかるSDGs未来都市、令和2年7月16日 永田クラブ、経済研究会へ公表 内閣府地方創生推進室 令和2年度)
NGO/NPO
日本には、SDGsに関する取り組みを行なっているNGO/NPOが多く存在します。
もし興味があれば、こちらのサイトで検索することができます。
取組事例 NGO/NPO | JAPAN SDGs Action Platform
わかりやすい例を抜粋してご紹介します。
①荒川クリーンエイドフォーラム
NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラムでは、調べるごみ拾いを中心に、様々な活動(水質検査や生物多様性の保護)を実施しています。調べるゴミ拾いは、ゴミを疲労だけでなく、どのようなゴミが多いのか、ゴミによって水質や生物多様性にどのような変化がもたらされているのか可視化することで、総合的に荒川の環境を考え、市民の意識の向上を図っています。
②全国ガールスカウト連盟
ガールスカウト日本連盟では、被災地のニーズを捉え、永年にわたり青少年教育に取り組んできたノウハウと全国の会員のチカラを生かし、復興・発展するための継続的な支援活動と青少年対象の防災教育を実施しています。
企業
多くの会社でCSRの一環としても特に注目されている目標11。いったいどのような取り組みがあるのでしょうか?
①第一測工株式会社
栃木の企業で、地元の空き家店舗を検索できるシステムを開発しています。
空き家の早期発見による街の治安向上やや、空き家をテナントとして使い資源の無駄を減らすことや循環型の街の実現につながります。
②加賀建設株式会社
加賀建設は石川県金沢市に拠点を置く建設会社で,土木工事も建設工事も行っています。
加賀建設は東ティモール民主共和国において,浸食防止のための築堤技術を人材育成やプログラム提供により伝えました。この技術は、東ティモール民主共和国に迫りつつある水没の危険性を減らします。
③NTT西日本(西日本電信電話株式会社)
災害時に使えるインフラづくりを進めています。災害時の停電は、私たちの生活だけでなく、大切な誰かと連絡を取る手段も奪います。NTT西日本では、災害発生時に被災地への通信が繋がりにくい場合に「災害用伝言ダイヤル(171)」と「災害用伝言板(web171)」を提供しています。また、日頃から災害発生を想定した訓練や、災害に強い通信インフラ設備の構築に取り組むなど、災害の多い日本でも安心して生活できるような取り組みを進めています。
(参考:SDGs目標11【住み続けられるまちづくりを】企業の取り組み事例で実践的に理解!)
(参考:NTT西日本の災害の備え・対策サイト|NTT西日本)
(参考:自然災害対策×ICT|NTT西日本)
最後に
「まちづくり」というと大それたものに思われがちですが、目標11の解決には住人であるみなさんの協力が必要不可欠です。例えば、2011年の東日本大震災の際にはどれだけ災害時に人と人とのつながりが大切なのかを実感しましたし、街の新しいインフラは住民のニーズを汲み取ったものが多いです。街をより良くしたい!というみなさんの思いこそが持続可能なまちづくりの一歩となるのではないでしょうか。
他の目標も見てみよう!
▼SDGsについて詳しくはこちら