【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ】
SDGsの目標16では「平和と公正をすべての人に」が掲げられています。
日本は、第2次世界大戦時に原子爆弾の投下を受けた唯一の被爆国であり、多くの日本国民が日本国憲法9条でも保障される平和を多くの国民が大切にしています。
一方で、日本国内では児童虐待に関するニュースが頻繁に報道されるなど、虐待や暴力に関連した社会問題が依然と残っています。
世界に目を向けると、虐待や人身売買、拷問によって苦しんでいる人がいたり、日本では当たり前のような権利を得られない人も多く存在しています。
この記事では、SDGs 目標16「平和と公正をすべての人に」の概要から、詳しいターゲット、企業の取り組みなどを紹介します。
見出し
SDGsとは
SDGsは“Sustainable Development Goals”の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。
SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。
SDGs CONNECTでは、SDGsの各目標ごとに解説記事を公開しています。
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SDGs 目標16「平和と公正をすべての人に」の概要
世界の長い歴史を振り返ると、人類は幾度となく戦争を繰り返してきました。日本は日本国憲法9条で戦争を放棄していますが、今までには多くの戦争を経験してきました。
今、世界中有のあらゆるところで戦争や紛争などが起きています。戦争や紛争によって「平和」が損なわれ、多くの命が失われるだけでなく、住む場所を失った多くの難民が生まれています。戦争や紛争によって特に影響を受けるのが、身体的にも社会的にも未熟な子供達です。UNICEFによると世界のどこかで5分に1人、子供が暴力で亡くなっていると言われています。また、身体的なダメージだけでなく、トラウマやPTSDなど精神的に受けるダメージも大きくなります。
SDGsで掲げられた17の目標を達成するためには、優先的に取り組まなければいけないのが「平和」で「公正」な社会づくりです。SDGsで掲げられた持続的な社会づくりには、「平和」は最も基礎的な要素と言えるからです。
以上のような課題を背景に、SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」では持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築することが掲げられています。
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」のターゲット
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」では、以下11個のターゲットが設定されています。
「1-1」のように数字で示されるものは、それぞれの項目の達成目標を示しています。
「1-a」のようにアルファベットで示されるものは、実現のための方法を示しています。
16.1 | あらゆる場所において、すべての形態の暴力および暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。 |
16.2 | 子どもに対する虐待、搾取、人身売買およびあらゆる形態の暴力および拷問を撲滅する。 |
16.3 | 国家および国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する。 |
16.4 | 2030年までに、違法な資金および武器の取引を大幅に減少させ、盗難された資産の回復および返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。 |
16.5 | あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。 |
16.6 | あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。 |
16.7 | あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型、および代表的な意思決定を確保する。 |
16.8 | グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。 |
16.9 | 2030年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。 |
16.10 | 国内の法律や国際的な取り決めにしたがって、だれでも情報を手に入れられるようにし、基本的な自由がおかされず、守られるようにする。 |
16.a | 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでのキャパシティ・ビルディングのため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。 |
16.b | 持続可能な開発のための非差別的な法規および政策を推進し、実施する。 |
平和と公正とは?
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」を考える上で、平和と公正がそれぞれどんな意味なのかを再認識することが重要です。
平和は「戦争や暴力によって社会が乱れていない状態」を指す言葉です。ノルウェーの社会学者 ヨハン・ガルトゥングは平和は大きく2つに分類しています。
消極的平和:戦争反対、対立関係の解消など
積極的平和:新たな仕組みづくり、協力関係の構築など
消極的平和では、平和を戦争のない状態と捉え、実際に目に見える暴力を加えたり、言葉で人を傷つけることがない消極的に平和概念を表現しています。
一方で積極的平和は、経済的搾取や貧困、政治的な抑圧、差別、植民地主義など、社会構造の中で生み出された不平等な関係「構造的暴力」がない状態を指します。
「平和」という言葉はさまざまな意味を内包する言葉であり、ガルトゥングによる定義を参考に具体化して考えることも重要でしょう。
また、公正とは、「判断や言動などが偏らず、正しいこと」を指す言葉です。公正と公平はよく混合されがちですが、公平は「判断や言動などが偏らない」ことを指す言葉で「正しい」というニュアンスが含まれていないので注意が必要です。
「公正な判断」「公正な取引」などと言われるように、世界的に平和を実現していくには公正であることが重要です。SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」のターゲットで掲げられている汚職や贈賄の大幅な減少や司法への平等なアクセスを実現するためにも、社会の隅々まで公正な視点を取り入れることが重要です。
平和と公正を保つためには?
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」で目指されているのは平和で包摂的な社会です。
SDGsのターゲットでは、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、実行的な制度の構築が目指されていますが、その下支えになるのが、殺人、児童虐待、人身取引、性的暴力などの撲滅です。
一方で、さまざまな形態の暴力や暴力に関連する死亡の背景には、宗教観の違いや貧困問題など、さまざまな問題が潜んでいます。
SDGsではそれぞれの目標が個別に追求され、他の目標がないがしろにされる「SDGsウォッシュ」が問題になっています。平和で公正な社会をつくるには、SDGsの目標16以外の目標にも目を向け、平和や公正をさまたげる問題を排除していく考え方が重要です。
世界の平和と公正の現状
紛争やテロによる死者
世界では多くの人が人によって故意に殺されている現状があります。
国際開発センターによると、10万人あたりの故意の殺人行為による犠牲者数の平均は約4.7人となっています。また、中南米では22.5人と高くなっており、治安の悪さが反映されていることが伺えます。
また、紛争による死者の数は201年には10万人あたり6人でしたが、2014年には5人に減少しています。しかし、依然と先進国と開発途上国の間で大きな格差が生じています。
2011年以降はシリアで内戦が発生。2014年には約6万人が紛争によって命を落としています。
また、21世紀に入り、テロ行為も社会課題となっています。特にイスラム過激派によるテロ行為が多発していて、2001年9月11日にアメリカで発生した「アメリカ同時多発テロ事件」をはじめ、対策の重要性が高まっています。近年では、北米や西ヨーロッパなどで極右勢力の攻撃が増加しています。
経済平和研究所によるとテロ行為による死亡者数は2019年には13,826人で、前年度から15%減少していますが、1万人以上の人がテロで命を落としています。
性的な虐待
世界の女性の3分の1以上が身体的、もしくは性的暴力を経験しているほか、15-19歳の女性1,500万人以上が強姦被害に遭っています。WHOによると2014年「イスラム国」はイラク北西部の村を襲撃し、7,000人以上の女性や子供が捉えられ、強制結婚や強姦、人身売買の被害を受けました。
女性の暴力に起因して世界のGDPの2%が損失しているという調査もあり、対策が急務です。
2018年には第9代国連事務総長のアントニオ・グテーレスが女性に対する暴力を「グローバルパンデミック」と表現し、すべての社会の恥の印と批判しました。
汚職や賄賂
公正な社会をつくる上で汚職や賄賂をなくすことも重要です。
トランスペアレンシー・インターナショナルが1995年以来毎年公開している「腐敗認識指数」は、世界各地の公務員や政治家が、どの程度汚職していると認識できるかを国際的に比較している指標です。
2014年度の腐敗認識指数の平均値は100点満点中43点となっており、69%の国々が50点を下回る結果になっています、また、世界銀行の調査に寄ると、2015年、低所得国で25%の企業が過去1年間で賄賂を行ったことがあると報告されています。
特に開発途上国では、事業ライセンスの取得や納税、建設許可などさまざまな場面で賄賂を求められるケースも多く、持続的な社会の発展に悪影響を及ぼしています。
日本の現状
平和や公正の課題感が少ない日本
日本の平和や公正は世界の中でも課題感が少ない現状だと言えます。
日本は平和憲法とも言われれ、日本国憲法9条で戦争を放棄し、「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」をうたっています。世界の不安定な状況下で国際社会で日本が集団的自衛権を行使し、自衛隊を保有し、限定的に戦力を保有はしていますが、国民の中に「平和」に対する課題感は少ないと言えるでしょう。
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」のターゲットで謳われている司法へのアクセスについても、日本国憲法第32条は、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と規定しており、国民が裁判を受ける権利を保障しています。
一方で日本では法律扶助、国選弁護、訴訟救助などの制度が取り入れられていますが、「内容と財源が著しく不十分である。」と日本弁護士連合会は宣言を発しています。
▼日本弁護士連合会『「国民の裁判を受ける権利」の保障に関する宣言』
また、平和と公正の水準が世界で比較して高い日本だからこそ、積極的に国際社会で平和や公正を広げていく必要があると言えます。
増加を続ける児童虐待
交戦権を放棄し、国内の紛争も少ない日本ですが、一方で虐待が急激に増加しています。
子どもが親などから虐待を受けたとして児童相談所が対応した件数は昨年度、全国で19万件を超え、過去最多を更新したと2020年11月に厚生労働省が発表しました。
内容別には、暴言を吐いたり子どもの目の前で家族に暴力を振るう「心理的虐待」が10万9118件(56.3%)と全体の半数以上を占めています。次いで、殴るなどの暴行を加える「身体的虐待」が4万9240件(25.4%)、子どもの面倒をみない「ネグレクト」が3万3345件(17.2%)、「性的虐待」が2077件(1.1%)となっています。
児童虐待は、さまざまな要因が重なり、家族関係が不安定になったときに発生すると言われています。大きく分けて3つの要因があります。
1つ目は親の要因です。親自身が虐待されたり、子育てがうまくいかない育児の不安、産後鬱やアルコール依存症など精神的な不安が代表されます。
2つ目は子供の要因です。発達の遅れや子供のこだわりの強さ、先天異常の疾患など、子供が悪いわけではないですが、子供に起因する虐待が発生しています。
3つ目は、家族をとりまく要因です。夫婦関係が不安定だったり、経済的な不安、核家族化や近所付き合いの希薄化など、育児の相談ができない環境など家族をとりまく要因も発生しています。
児童虐待を撲滅していくためには、相談しやすい環境や、地域での共助など、複合的に親をサポートしていく仕組みづくりが重要です。
世界の取り組み事例
フィンランドのネウボラ
ネウボラとは、フィンランドの出産・育児支援施設です。フィンランドでは、妊娠が判明すると地域のネウボラを訪れ、妊婦1人に1人の担当保健師がつきます。この保健師は出産や育児の専門知識を有しており、医療や健康に関する相談や子育てや家庭の問題などを無料で相談できます。
場合によっては、看護師やソーシャルワーカーなどの専門職からのサポートも受けられ、医療や社会福祉を子育て家庭を繋ぐ接点になっています。
日本国内では2016年の母子保健法の改正により、2017年4月から「子育て世代包括支援センター」の設置が全国の市区町村の努力義務になっています。これにより、育児の不安が起因する虐待の防止が図られています。
国連平和維持活動(PKO運動)
国連平和維持活動(United Nations Peacekeeping Operation:PKO)は国連が紛争当事者の間に立ち、停戦や軍の撤退の監視などを行い、自体の沈静化や紛争の再発防止を図り、対話を通じた紛争解決を支援する活動です。
冷戦が終結して以降、国際平和や安全保持の分野での国連の役割が高まっています。一方で、紛争の多くが国家間だけでなく国内における紛争も国際社会が対応を迫られ、PKOの任務も多様化しているのが現状です。
PKOでは3つの原則が遵守されています。
①主要な紛争当事者の受け入れ合意
②不偏性
③自衛及び任務の防衛以外の実力の不行使
日本は1992年6月に「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(通称PKO法)」が成立していらい、PKOに参加しています。初めての要員派遣として1992年9月にに第2次国連アンゴラ監視団(UNAVEM Ⅱ)に3名の選挙監視要員を派遣しました。
日本はこれまでに世界各地で展開してきた延べ14の国連PKOなどに約9000名の人員を派遣し,国際社会から高い評価を受けています。また日本は国連加盟国の分担金としてアメリカに次いで多い約11%を負担しており、財務的にも貢献していることも特徴です。
日本の取り組み事例
オレンジリボン運動
オレンジリボン運動は、「子ども虐待のない社会の実現」を目指す市民運動で、児童虐待防止全国ネットワークが国内全体に活動を広めています。
子ども虐待は、児童相談所や地方自治体などの公的機関だけでは防止できません。一人ひとりが協力し合う「子育てにやさしい社会」が子ども虐待の防止につながります。
オレンジリボン運動を推進する児童虐待防止全国ネットワークは、児童虐待防止シンポジウムの開催などを通して、児童虐待防止を啓発するだけでなく、他の団体と連携して児童虐待の防止のために活動しています。
オレンジリボン運動について詳しくはこちら日本航空(JAL)
JALグループは、あらゆる人々に対する人権尊重の責任を果たすため、「JALグループ人権方針」を制定しています。
平和で公正な社会をつくっていくためには国連や各国の政府に頼るだけでなく、一企業として人権を尊重していく考え方が重要です。
JALグループは、国際人権章典や国際労働機関の「労働における基本的減速および権利に関する宣言」、国連の「グローバル・コンパクト10原則」など、国際的に承認された人権絵hの支持を「JAPグループ人権方針」で公表しています。
またJALグループは、重大な人権侵害の1つの人身取引を課題しし、航空機を用いた人身取引を防止するために、人身取引が疑われる場合は関係当局に通報する業務手段を整えるなど、自社の事業が人権侵害を助長することがないようにガバナンスを整えていることも特徴です。
その他、苦情窓口の設置や外国籍労働者が活躍できる環境の整備、英国現代奴隷法への対応など、 SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」に対して明確な方針を表明しています。
Yahoo!ネット募金
さまざまな団体やプロジェクトを選べて、より手軽に募金できるオンライン上の寄付マッチングシステム、「Yahoo!ネット募金」では、2007年から国連難民募金を実施し、累計で1,500万円以上が募金され、国連の難民支援機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の活動に生かされています。
国民難民募金以外にも、Yahoo!ネット募金ではさまざまな難民救済プロジェクトへの募金が可能です。
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